629 食料調達とクラウド化
ソウイチロウさんが言うに、ここは元々食料を作るための場所だったらしい。
『ソウイチロウさん、なぜここがそうだとわかったんですか?』
『ここにある一面植物に覆われた廃墟には法則性があるんだ。まずは水の確保、水路やパイプラインがあるということは元々生存に適した環境だと言える』
この人はこの場所を見ただけでそこまでわかったのか。
『それに、建物の形だ。今や完全に朽ちて跡がわかりにくくなってるが、一つ一つの部屋が小さく、その部屋には水を飲める場所と下水処理の出来る場所がある。つまりこれは食肉用の家畜を効率的に育てるのに適した建物の形というわけだ。』
確かにそう言えばこれらの建物は形は違うが牧畜の小屋のような形に見えなくもない。
『そういう点から考えて、ここはこの島全体の食料を作る場所だったと言えるということだな。今や家畜が完全に野生化したジャングルになってるみたいだが』
なるほど、元々食用に作られた生き物だというなら、野生化しても毒が無ければ問題無く食べれるってわけだ。
それだとここで忘れ去られし者達の集落に辿り着くまでの間の食料を調達できるかもしれない。
『ユカ、もう少し調べたら畑の跡とかもあるかもしれないぞ』
『わかりました、少しこの辺りを調べてみます』
ボクはみんなに声をかけ、辺りの食料を集めることにした。
「みんな、どうやらここは大昔の食糧庫みたいな場所だったみたいなんだ。だからここで当分の食料を集めよう」
「成程ねぇ、それなら納得だねェ。この造り、確かに普通の建物じゃないと思ったけど食料のための場所なら取り放題だねェ」
「ユカさん、俺はサラサと肉を取ってきます」
「それじゃあ僕は肉を解体します」
「私も……手伝います」
「それじゃあ私とエリア様は果物とかを集めてきますわ」
とりあえずボク達はチーム分けをして食料を集めることにした。
フロアさんとサラサさんは肉の調達。
ホームさんは肉の解体
エリアさんとルームさんは野菜や果物を探す。
各チームに分かれ、食料を探すことになった。
「ン、それじゃあワシは何をすればよいかのう。うむ、それではワシは魚を取ってくるかのう」
「それじゃあ妾はそれらの食料を凍らせたり保存すれば良いねェ」
決まった。
各自がそれぞれ分かれ、食料を探す事数時間、ボク達は一週間以上の食料を集めることが出来た。
「まあこれくらいあれば十分かねェ。それではこれを凍らせて……異空間にしまっておこうねェ」
大魔女エントラ様の魔法は便利だ。
異空間収納でここでしまったものでも別の場所で開くことが出来る。
『どこでもしまえてどこからでも出せる、まるでクラウドデータみたいだな』
『ボクはあなたの言っている意味が分からないんですが……』
たまにソウイチロウさんはボクの理解できない言葉を使う。
この人はボクが理解できていると思ってこう言ってしまうのか、それとも単に思ったことを発言してしまうのだろうか。
『ああ悪かった、クラウドデータというのはわたしの世界にあったシステムで、どこかで何かを保存したら、別の場所からでも取り出すことが出来るシステムのことなんだ』
ソウイチロウさんのいた世界にも魔法みたいなものがあったのか。
でもそんな高度な空間魔法、大魔女エントラ様以外に使える人がごろごろいたとしたら凄い世界だと言える。
『ソウイチロウさん、凄いですね! どこでしまったものでも別の場所で取り出せるなんて! 食べ物とか取り放題じゃないですか!』
『いや、物体はクラウド化できなかったぞ。クラウド化できたものはあくまでも電子データだけだったからな』
ますますワケがわからなくなってきた。
物体以外で保存する? 一体何をしまうのだろうか。
ボクは頭が痛くなりそうなので、このことを考えるのはやめることにした。




