624 さてどう動けばいいか
『まさか高い闇の正体が宇宙空間だったとはな。つまり忘れ去られし者達の集落とは、太古の時代に作られた避難用の宇宙ステーション、もしくはコロニーだったってわけだ。なるほどな』
ボクには全く突拍子もつかないことだが、ソウイチロウさんは既にここがどんな場所で今から会う忘れ去られし者達がどんな人達なのかまで想定できているようだ。
本当にこの人の元々住んでいた世界って、どれほどのものだったのだろうか。
「ふう、助かったわい。ワシとしたことが空気が無くて死にかけるなんて……」
「まさか高い闇の中が空気の無い世界だったとかとはねェ」
「ユカ坊……そなたの機転が無ければ皆くたばっていたかもしれんのう。じゃが、どうしてここには原っぱがあるんじゃ?」
確かにわけがわからない。
ソウイチロウさんは何故マップチェンジスキルで草むらを作ったのだろうか?
『ソウイチロウさん、休む場所が必要というだけなら何故草むらを作ったんですか? 食べるためじゃないし、何かのクッションのためですか?』
『ユカ、わかりやすく説明すると、この高い闇とは空気の無い世界だ。ユカの住んでいる世界に空気があるのはこの草があるからなんだ。つまり、イオリ様が息できなくなったのも空気が無いからだったからな、だから私はここに原っぱを作ることで空気を作ったってわけだ』
なるほど、それは知らなかった。
原っぱの草が空気を作っているなんて知っているのはこの中ではソウイチロウさん以外にはいないだろう。
この中で叡智に優れるはずの大魔女エントラ様やアンさん、エリアさんでも高い闇については何もわからなかったくらいだ。
「でもそれならルームさんの魔法のエアリアルバーストとかでも空気を撃ち出せれば……」
『ユカ、この高い闇、宇宙空間では少しの力が凄い力になる。もしエアリアルバーストを撃てばイオリ様がどこか遠くに吹っ飛ぶか、空気そのものが無ければ魔法自体が不発に終わるかもしれなかったんだ』
ソウイチロウさんはきちんと考えた上で行動していたようだ。
少し落ち着いたボク達はこの後どう動くかをみんなで考えた。
「困ったねェ。妾でも使い魔がいなければ辺りの様子がわからないからねェ。流石に高い闇の中にまで来れる使い魔は妾でも連れていないからねェ」
「ふむ、面目躍如といっては何じゃが、ワシが千里眼でこの付近を調べてやろう。何、千里眼はワシの元からの力じゃからな……光を探る形でこの付近数里に何があるのかを見てみるわい」
目を閉じて意識を集中させたアンさんは高い闇の中に何かがあるのかを探してくれた。
「ぬう、巨大な空の島? 岩石で出来たようなものがいくつもある中に……何じゃこれは!?」
「イオリ、何か見つかったのかねェ?」
「う、うむ……何やらとてつもなく巨大な金属とぎやまんで出来たような島が見えたわい……」
それがひょっとしてソウイチロウさんの言っているコロニーなのだろうか?
「でもどうやってここから動くのかねェ。空気が無いんじゃここから動くわけにもいかないのではないかねェ」
「そう言われればそうじゃな。ワシも高い闇の中では龍の姿を保つことは出来んからのう、困ったもんじゃ」
その時ソウイチロウさんがボクにアドバイスをしてくれた。
『ユカ、それならこの小さな岩そのものを魔力で動かして移動することは出来ないか? この中はエントラ様の防御魔法で守られていて、草があるから呼吸もできるだろう』
『なるほど、ではボクそう言ってみます』
ボクは大魔女エントラ様にソウイチロウさんのアドバイスを伝えた。
「エントラ様、実はボク考えたことがあるんですが」
「あら、この状況を変える何かいい方法が思いついたようだねェ」
「はい、エントラ様。魔法でこの岩ごと動くことは出来ますか?」
「へェ。なるほどねぇ、確かにここなら魔法で守られていて呼吸もできるからねェ。確かにそれなら動けるかもねェ」
大魔女エントラ様は杖を掲げて魔力を集中させ始めた。




