623 光も空気も無い世界
今ボク達のいる場所は真っ暗な夜の中だ。
しかしおかしい。
まだ今は昼になる少し前くらいのはずだ。
「ぬうう、すまぬ。少し息苦しくなって……寒さを感じるわい」
アンさんが何かを言っているようだが何も聞こえない。だが、アンさんが苦しそうだ。
どうやら先程までの空気の壁らしいものはもう感じていないらしい。
アレだけ真っ赤だったアンさんの身体が今はむしろ夜の闇の中で黒く見える。
その時ボクの中のソウイチロウさんが焦った様子を見せた。
『まさか! ユカ、今は話している場合ではない! 身体を少し借りるぞ!』
『え!? ……わかりました』
何やらただ事ではなさそうな雰囲気だったので、ボクはソウイチロウさんに身体の主導権を譲った。
「エントラ様、イオリ様と心で会話できますか?」
「まあ……可能だけど、普通に話すのは出来ないのかねェ」
「今は念話でお願いします!」
大魔女エントラ様は念話でアンさんと会話をした。
『イオリ、アンタ何か様子が変じゃないかねェ?』
『ぬう……それがのう、寒さが止まらんのじゃ。それに息が出来ん。これは何かの呪いか? これが高き闇と呼ばれる中なのか??』
アンさんと心で話した大魔女エントラ様がボクに伝えてくれた。
「どうやらイオリがかなりよろしく無さそうだねェ。息が出来ないだの寒いだのと言ってる。これは何かの呪い? それとも高き闇と呼ばれる場所の中で起こることなのかねェ?」
それを聞いたソウイチロウさんが反応をした。
『ユカ、高い闇の正体が分かった! このままでは危険だ!! ここは私に任せてもらうぞ!』
そう言うとソウイチロウさんはマップチェンジスキルでいきなり高い闇の中に何かを用意した。
「目の前の何も無い空間を一面の地面にチェンジ! さらに……草原にチェンジ!!」
何を考えたのか、ソウイチロウさんはいきなり高い闇の中に地面を作った。
「エントラ様、重力魔法を弱めにかけてください。そして防御結界を魔法で作ってください! イオリ様は危険ですからすぐに元の姿に戻ってこの中に入って下さい!」
え? こんな何もない空中に地面を作ったら間違いなくそのまま落下しないか?
ソウイチロウさんは何を考えているのだろうか。
だが彼は真剣で、どうやらふざけている様子は無さそうだ。
大魔女エントラ様はソウイチロウさんの言ったようにすぐに対応してくれ、アンさんはドラゴンの姿から女の子の姿に変化して今ボク達のいる地面の上に辿り着いてから倒れた。
『ソウイチロウさん、どうにかアンさんも助かったみたいです。ところで高い闇って何だったんですか?』
『ユカ、高い闇の正体は……空気の無い宇宙空間だ。空気の壁とも言える成層圏を超えた大気圏の外側の光の無い世界、それが宇宙という場所だ。つまり、忘れ去られし者達の住んでいた場所とは……太古に作られた宇宙ステーションだったということになるな』
『それで、なぜソウイチロウさんが作った地面は落下せずそのまま残っているのですか?』
『ユカ、それを話せば長くなるが、私がエントラ様に重力魔法を使って欲しいと頼んだのもそれが理由の一つだ』
やはりわからない。
だがソウイチロウさんはこのパーティーの中で唯一高い闇の正体を知っていた。
彼の知識と経験が無ければボク達は下手すれば高い闇の中で全滅していたかもしれない。
あの大魔女エントラ様やドラゴンの神様のアンさんも知らないことを知っていた彼は本当に凄いと思う。
少し休んだことでアンさんはどうにか体力を回復させることが出来た。
「ふう、死ぬかと思ったわい。まさか長年生きてきてあのような不可思議な場所に入り込むとはのう……」
「これについては妾もお手上げだわねェ。今までの常識がまるで通用しないんだからねェ。ユカがいなかったら妾達も全滅だったかもねェ」
さて、今はどうにかソウイチロウさんのおかげで少し休めたが、この後忘れ去られし者達の集落にはどう行けばいいのだろうか?




