621 高い闇?
アンさんは空を飛び続け、日が落ちた頃ボク達は一度休憩するために着陸してから食事をして野宿した。
野宿はフワフワ族のウルツヤ様やサラサさん、それにフロアさんが得意なのでボク達は食料だけ集めてくればすぐに用意が出来た。
「さて、明日の夕方くらいには一度ふわふわ族の集落に着くが、うるつや殿をそこに降ろせばいいのじゃな」
「はい、俺とサラサはそのままユカさん達と失われし者達の集落に向かいます」
「我、フロアと共に行く」
とりあえず今日はもう休もう。
明日も朝は早い。
次の日、ボク達はまたアンさんの背中に乗せてもらい、フワフワ族の集落を目指した。
空路は邪魔者も妨害も無く、雲もそれほど出ていなかったのでボク達は予定よりも早くフワフワ族の集落に辿り着くことが出来た。
「おお、儂、帰ってきた」
「族長様がお帰りだ!」
「救い主様達とフロアやサラサもいる」
ボク達はフワフワ族の人達に歓迎され、その日の夜はフワフワ族の集落で休むことになった。
ウルツヤ様は村の人達に今までの話をしている。
村の人達は誰もたどり着けない場所の地下に巨大な船があったことを聞いて驚いていた。
「凄い、空飛ぶ船があったなんて」
「救い主は忘れ去られし里に行くのか」
「おいら昔聞いたことある。高い闇の中、人の辿り着けない遥か高い地に誰も知らない者達が住んでいる」
高い闇? やはりターナさんの言っていたのは高い山ではなく高い闇なのか。
どうやらボクの聞き違いではなかったようだ。
しかし、高い闇って一体どんな場所なのだろうか?
まあ行ってみてからの問題だな。
明日になったらみんなで忘れ去られし者達の集落に向かおう。
次の日、ボク達はウルツヤ様に別れを告げ、村を離れようとした。
しかしその時、ソウイチロウさんが何かをボクに伝えようとした。
『ユカ、一つ気になることがあるんだが、ここを出る前に試してもらえないか?』
『ソウイチロウさん? 試したいことって何ですか?』
『ユカは前の時にここで動かなくなったエアバイクを覚えているか?』
『エアバイク……? あの機械の暴れ馬のことですか?』
どうやらソウイチロウさんはあの機械の暴れ馬に何かしたいことがあるようだ。
『ユカ、少し身体を借りるぞ』
ソウイチロウさんはそう言ってボクの身体を使って何かを始めた。
「ターナさんに貰ったこのエンジンシステム、もしこれが魔力増幅で動くものなら……このエアバイクのメインシステムをこう組み込んで……よし! 完成だ!」
なんと、ソウイチロウさんはターナさんから預かった謎の物体を使い、機械で出来た馬の心臓部にしてしまった。
「よし、エンジン始動! 動いてくれよ……!」
ソウイチロウさんが馬の横の筒状の耳みたいな部分をひねると、その身体に激しい雄たけびが轟いた!
「ブロロロロ! ブロロロロ! ブロロロロォー!!」
「やった! 成功だ!」
なんとソウイチロウさんはあの動かなくなった機械仕掛けの馬を自力で治してしまったのだ!
「よし、これを持っていければ何かに使えそうだ!」
「アンタ……ホントとんでもないコトやらかすよねェ」
大魔女エントラ様が半分呆れたような表情を見せた。
「はい、これどうやって持って行くつもりだったの? まさかイオリの背中にこれ乗せるつもりだったのかねェ?」
「え? そ、そうですけど」
「流石に可哀そうでしょうが。鱗ボロボロになるわよ。仕方ないから妾がしまっておいてあげるからねェ」
そう言って大魔女エントラ様は魔法でどこかに機械仕掛けの馬をしまい込んだ。
「す、すいません」
「まあ、アンタのそういう面白いところ、妾は大好きだけどねェ。見てて飽きないからねェ」
大魔女エントラ様、彼女が言っているのは間違いなくボクではなくソウイチロウさんに対してのことなのだろう。




