617 ターナさんのお願い
次にボク達が向かう場所は、魔技師の集落。
別の言い方では失われし者達の集落と呼ばれる場所だ。
そこは切り立った高い山の上に存在するらしく、空を飛べないとたどり着く事ができない。
幸いボク達は大魔女エントラ様やドラゴンの神様であるアンさんのおかげで本来なら誰もたどり着けないような高い山の上でも行くことができる。
どうやら魔技師の里は鍛冶屋のターナさんが場所を知っているようだ。
「ユカ、アタシの先祖、スミソニアン様の住んでいた集落はここからずっと西にある高い闇の中だよ」
「わかりました、ターナさん。行ってみます」
「あ……あの、ユカ……」
ターナさんがボクに何かを言おうとしていた。
「何ですか?」
「あ、あのね……もし良かったらなんだけど……無茶は言わないから、ユカの持ってるそれ……貸してくれないかな?」
「それ?」
ターナさんが指差していたのは、ボクが布に包んでいたオリハルコンで出来た床板だった。
「そう、それだよ! お願いだよ。それを渡してくれるならアタシアンタに何でもしてあげるからさ」
「え、えええっそんなことを言われても……」
「どうしてもダメかい? そう。そうだよね……そんな貴重な金属、そう簡単に人に渡すなんてアタシでも躊躇するし……」
「そんなこと無いですよ。いきなり言われてビックリしただけですし」
ターナさんの顔が明るくなった。
「ユカ、本当かいっ! それをアタシに!?」
「はい、ボクが持っていても何も使えないただの板ですから」
ターナさんがボクを太い大きな腕でギュッと抱きしめてきた。
その時、彼女の大きなおっぱいが顔に当たってボクは何と反応して良いのかわからなかった。
「ユカ、ありがとうね。大好きだよっ」
「えー。コホン、とりあえず落ち着くんだねェ」
大魔女エントラ様が杖の先端でターナさんを軽く叩いた。
彼女は少し興奮していたターナさんを魔法で落ち着けたらしい。
「あ、アタシ、何かやっちゃった?」
「いえ、特に何も。オリハルコンを渡すといったら興奮したくらいです」
「そりゃ興奮するよ。伝説の金属なんだからさ」
そう言ってターナさんはボクの持っている剣、エクスキサーチを見た。
「ユカ、アンタ……その剣がオリハルコンで出来ていたこと知ってた?」
「え!? これが、オリハルコンの剣!」
ターナさんがため息をついた。
「はー、その態度ってことはそれがオリハルコンの剣だって知らなかったんだね。流石にアタシもオリハルコンを使ってミスするわけにいかないからその剣を貸してくれとは言えなかったけど、もしユカがそれを貸してくれるなら……そのオリハルコンと合わせてその剣をもっと強くすることもできるんだけど」
エクスキサーチがもっと強くなる。
オリハルコンで出来た剣をターナさんは強化する事ができると言っているのだ。
「ユカ、ここは彼女のいうことを信じてみても良いんじゃないかねェ。オリハルコンはそこにあるだけじゃないからねェ」
「!!?? 大魔女様! 本当ですか!? 本当にオリハルコンが他にもあるというのですかっ!」
「そうだねェ。妾の長年のコレクションを探せば見つかるかもねェ」
そう言うと大魔女エントラ様はボクに意味ありげな目線を見せた。
「そうだよねェ。ユカ」
「は。はい。そうでした……」
それを聞いたターナさんが目をシイタケのようにキラキラと輝かせてボク達に迫ってきた。
「お願い! オリハルコン……アタシに使わせてくれよ。絶対に、絶対に凄いもの作ってみせるからさっ」
ターナさんの迫力に負けたボクは手元にあったオリハルコンとエクスキサーチの剣を彼女に手渡してしまった。
「三日後来てくれよ! 絶対に凄いもの作ってみせるからさ!」
ターナさんは大声でボクに凄い剣を作ってくれると宣言した。




