616 古代の動力炉
「お願いだ。アタシの知っていることなら何でも話すから、絶対にあのアルビオンをぶっ壊してくれよ!」
ターナさんの願いは切実だった。
彼女は一体どれだけ辛い思いをしたのだろうか。
その言葉の端々からゴルガやアルビオン、テリトリー公爵への憎しみが伝わってきた。
「そうねェ。それじゃあまずはアンタが誰なのかを教えてもらおうかねェ」
「アタシは、ターナ・スミソニアン。古代の魔技師、スミソニアン一族の末裔さ。アタシの先祖は忘れ去られし者達の集落を離れ、人と共に生きることを選び、人里に降りてきたんだ。その理由が何だったのかはわからないけどね。でもアタシ達のご先祖様は人のために便利な道具を作ることを喜びとし、鍛冶屋として長年この国に住んでたんだ」
どうやらターナさんの一族は忘れ去られし者達とは離れて暮らしていたらしい。
「なるほどねェ。忘れ去られし者達と同じ魔技師の一族だから古代金属の加工ができたってわけだねェ」
「そう、ユカが魔神の腕を持ってきた時、アタシの中の魔技師としての血が滾ったんだ。これは是非とも加工したい、アタシの技術を見せたいって」
そうだったのか。
だから彼女はボク達から金を取らずに鍛冶屋としての技術を振るってくれたのか。
「アレは楽しかったね。まさか生きているうちに古代金属ゾルマニウムをアタシの手で加工できるなんて思っていなかったからね。その後もユカは色々と加工しがいのある素晴らしい物をアタシに渡してくれた。だからアタシはその想いに応えたってわけさ」
実際ターナさんが加工してくれた鎧や武具はボク達が数万の魔物の群れと戦う時にとても役に立ってくれた。
彼女がいなければボク達はもっと苦戦していたかもしれない。
「アンタのことはよくわかったからねェ。魔技師の一族ならユカ達の武器防具を古代金属で容易く作れるのも納得だねェ」
「ありがとうね。でも、ここから話の本題に入っていいかな」
ターナさんがなにかを用意した。
それは金属で出来た丸い筒と管を何かでつないだような不思議な形だった。
「これが何かわかるかい?」
「何ですか? これ」
どうやらこれが何かわかったのはソウイチロウさんだけだったようだ。
『これは、何かのエンジンパーツのように見えるな。多分古代の技術で作られた動力装置なんだろう』
『ソウイチロウさん、これが何かわかるんですか?』
『ユカ、少し身体を借りるぞ』
ソウイチロウさんが身体の主導権を貸してくれと言ったのでボクは彼に一旦身体を譲った。
「ターナさん。これは古代のエンジンシステムですか。コレは何に使われた物なのでしょうか」
「ユカ、アンタはやっぱりすごいね。そう、これは古代の動力炉。あのアルビオンに使われているものと同じヤツを小型化したものさ」
「やはりそうでしたか。それで、コレは何かに使われていたものなんですか?」
「いや、これはアタシが先祖の文献をもとに自分で作ってみた物さ。ここまでは作ったけど、これを何に使うかはアタシもわからないんだ」
そう言って彼女はボクに古代の動力炉を渡した。
「ユカ、アンタならこれの使い方がわかるはず。一度魔技師の集落に行ってみてくれないかな?」
「魔技師の集落?」
「そうだね、アンタ達の言い方で言うなら……忘れ去られし者達の集落かな。誰もたどり着けない切り立った山の上にあるけど、アンタ達なら行けるだろう」
「そうねェ。妾やあのイオリならいくら高い山の上だとしても行けるかもねェ」
「お願いだよ、あのアルビオンをぶっ壊すために魔技師の集落に行ってみてくれよ!」
ターナさんはボク達にすがるように頼みごとをしてきた。
どうやらあの空帝戦艦アルビオンを倒すヒントが魔技師の集落にあるらしい。
ボク達の次の目的地は魔技師の集落に決定した。




