615 大量の犠牲の上に
今この地下工房にいるのは、ボク、大魔女エントラ様、ターナさんの三人だ。
「手荒なマネして悪かったねェ。まあアンタも悪ふざけが過ぎたからねェ」
「……ふんっ」
ターナさんは先程の件で少し不貞腐れたような様子だ。
「それで、本題に入るけど、アンタなんでゴルガのことを知ってるのかねェ」
「とーちゃんが、ゴルガのせいで殺されたんだよ」
「え? どういうことかねェ」
どうも穏やかでない話が出てきた。
ターナさんが誰もいない地下にボクと来た理由もそれと関係しているのかもしれない。
「まあユカに悪ふざけしたことは反省するよ。それで、アタシのとーちゃんの話だけどね、とーちゃんは魔技師の末裔であることを隠していたんだ。それで鉱山技師として国の採掘事業に取り組んでたんだけどね、ある日……とんでもないモノを見つけてしまった」
「アルビオン……だねェ」
「その名前を知っているってことは、アンタ達もうある程度の話は知っているものとして話すよ。そう、アタシのとーちゃんが鉱山の奥で見つけてしまったのはゴルガ文明の遺産、空帝戦艦アルビオンだったんだ。それを知ったテリトリー公爵がとーちゃん達を脅してアルビオンを発掘させようとした。そのためにどれだけの人達が犠牲になったかはわからないよ……」
ターナさんの表情が曇った。
今は思い出すのもつらい話をボク達のためにしてくれているのだろう。
「とーちゃんは犠牲者を増やさないために魔技師の技術を出してしまった。とーちゃんとしてはそれが最善だと思ったんだろうね。でも、そのことをテリトリー公爵に嗅ぎ付けられ、とーちゃんは拷問の末に自身が魔技師ダルダロスの弟子の関係者であることを自白させられた……」
「酷い話だねェ……」
「許せない……」
ターナさんは涙目になりながら、それでも話を続けてくれた。
「とーちゃんは長い拷問を受けたせいで人格が壊れてしまった。そして公爵の言うがままに大量の工事用建機を作り、多くの犠牲者を出しながらついに古代の飛行戦艦を再生させてしまったんだ……その後とーちゃんは戦艦の上から突き落とされて殺された……アタシはそれをとーちゃんの部下だったって人から聞いたんだ」
何という話だ。
ターナさんはボク達に今までそんな素振りを一つも見せたことが無かった。
彼女は明るく振舞いながら、父親のことをどうにか吹っ切ろうとしていたのだろうか……。
「とーちゃんが再生してしまったアルビオン、あれが今どんどん世界中をメチャクチャに壊している。でも、アタシにはどうすることもできない。ゴルガの名前を知ってしまうと公爵の手下にどこまでも追い詰められて殺されてしまうんだ。だからアンタ達もこのことは忘れた方がいい……あんな怪物に勝つなんて、無理なんだよ」
許せない。
ボクは絶対に許せなかった。ターナさんはテリトリー公爵のせいで父親を失い、さらに古代文明のことを知っているということで日々隠れ住む生活しか出来ていないのだ。
「許せないねェ……妾が叩き潰してあげようじゃない」
「あ、貴女は一体……」
「おや、自己紹介がまだだったかねェ。妾はエントラ。ユカの仲間で巷では流星の魔女だの、災厄の魔女だのって言われてるかねェ」
「流星の……魔女様!?」
どうやらターナさんも大魔女エントラ様の名前を知っているようだ。
「安心していいからねェ。ここにいるユカは数万の魔族の大軍を一人で倒せるほどの力があるし、妾も本気を出せば一国を滅ぼせるくらいの力があるからねェ」
「す……凄い‼ もしかして、あなた達なら……アルビオンを!」
「そうねェ。まあやり方次第だろうけどねェ。とりあえずアンタの知っていることを全部教えてくれるかねェ」
「はいっ! 喜んでお伝えします。どうか、とーちゃんの仇を、犠牲になった多くの人達の仇を取ってください!」
大魔女エントラ様はターナさんの願いを聞いてニッコリと微笑んだ。




