614 魔技師の末裔
ターナさんはボクを工房の中に入るように焦って押し込んだ。
「そそそ、そんなに急がなくても……」
「ユカ、いいから早く入りなっ」
ターナさんは有無も言わせずボクを工房の中に入れ、入口の鍵を閉めて玄関の灯りを消した。
「手荒なマネをしてすまなかったね。でも仕方ないんだよ。さあ、こっちへおいで」
ランプを手元に持ったターナさんは薄暗い中を地下に向かって降りていった。
どうやら工房は地下にもあるようだ。
「さて、鍵を閉めてっと」
ボク達が階段の下に来ると、ターナさんは上の部屋に続く上扉を閉めた。
「さて、二人きりになったね。ユカ……これからすることはわかるかい?」
そう言うとターナさんは上着を脱ぎだした。
彼女の身体は筋骨隆々な中に大きなバストが揺れている。
「え? えええぇ??」
彼女はボクと今から一体何をするというんだろうか?
「おや、顔が真っ赤だね。こういうことはひょっとして初めてかい?」
ターナさんが舌なめずりしてボクに顔を近づけた。
ボクは気持ちがドキドキして心臓の鼓動がどんどん高まってしまっている。
「プッ……アハハハハ、冗談だよ。そんなことしたらあのエリアちゃんが可哀そうじゃないかい」
「え? えええーっ??」
なんとターナさんはボクをからかっていたのだ。
「でもね、ユカ。これはカモフラージュなんだよ。アンタ、その布で包まれたモノ出してごらん」
ターナさんの表情がガラリと真剣なものに変わった。
「これ……ですか?」
「そう、これだよ……って、コレ……まさか伝説のオリハルコン!?」
オリハルコン。
ボクも名前は聞いたことがある伝説の金属だ。
まさか古代遺跡の床や壁がオリハルコンで出来ていたなんて全く気が付かなかった。
「ユカ、それ絶対に人に見せちゃダメだよ。それは……それを巡って戦争すら起きる代物だからね」
「ターナさん、なぜこれがオリハルコンだと知っているんですか? それに、ゾルマニウムの加工もできたとか……ひょっとして、ターナさんはダルダロスの子孫?」
ターナさんがダルダロスの名前を聞いて目を丸くした。
「ダルダロスだってぇ!? アンタ、その名前どこで知ったの!!??」
「あ、あの……古代遺跡で見つけたんです、魔技師ダルダロス……ひょっとしてターナさんはダルダロスを知っているのですか?」
「……ユカ、アンタには隠しごと無しに話すよ。アタシはターナ・スミソニアン。ダルダロスの一番弟子だったという魔技師スミソニアンの末裔さ」
やはりターナさんは失われし者達の末裔だった。
ダルダロス本人ではないが、彼女はその弟子の系譜。
彼女ならゴルガ文明の話をしても通じるかもしれない。
「あの……ターナさん。今から言うこと……絶対に人に言わないで下さいね」
「ああ、アタシは仕事柄口は堅いんだ。安心しな」
「ターナさんは……ゴルガって名前を聞いたことありますか?」
ゴルガの名前を聞いた瞬間、ターナさんの表情が険しくなった。
「ゴルガだって!? ユカ、その名前は絶対に表で言わないようにしな。下手すれば命に係わるよ」
「ターナさん? 一体何が」
「その話、妾も詳しく聞きたいねェ」
この声は!?
「誰? どうやってここに入ったの!?」
「エントラ様! いつからここにいたんですか?」
「そうねえ、そこのお嬢さんが上着を脱いだあたりかねェ」
それを聞いたターナさんの顔が真っ赤になってしまい、彼女は手当たり次第に工具を大魔女エントラ様に投げつけた。
「何なのよ! 何なのよ! 何なのよォォー‼」
しかし工具は何ひとつとして大魔女エントラ様を傷つけることができなかった。
「はいはい、落ち着くんだねェ。真面目な話があるんでしょ」
大魔女エントラ様は一瞬でターナさんのそばに現れ、指を彼女の額に弾いた。
すると一瞬で動けなくなったターナさんがその場に座り込んでしまった。
「さて、話の続きをしてもらおうかねェ」




