611 忘れ去られし者達
盗賊の住処の奥にあった古代の遺跡にはこれ以上何か新しいものは見当たらなかった。
今ボク達が知ったのは、古代文明最強最悪のゴルガ軍国というかつて存在した国の存在と、ボク達が今住んでいるグランド帝国の公爵派と呼ばれる貴族達がその遺産を悪用して世界を我が物にしようとしていることだ。
公爵派貴族の野望を止めなければ、この国に住む人達がどんどん不幸になってしまう!
幸い、まだ古代の遺産を悪用出来ていたわけではないヘクタール男爵や、シャトー侯爵夫人、バスラ伯爵といった悪徳貴族達はボク達の力で倒すことができた。
そしてそれらの悪徳貴族、公爵派と組んでいた魔族は南方の決戦で壊滅状態になったはずだった。
しかし魔将軍アビスが逃げ延び、新たな仲間を増やして公爵派貴族と組んでいるのは今までの話を聞いていれば想像がつく。
その上、今の公爵派貴族には空帝戦艦アルビオンという最強最悪の古代の遺産ともいえる巨大な空を飛ぶ船があるのだ。
「困ったことになったねェ……妾の使い魔達に各地を調べさせてたんだけど、あの空帝戦艦アルビオンは移動先をことごとく蹂躙しているみたいだねェ……」
「そんな! お父様は無事ですの!?」
「ゴーティ坊やは、無事だねェ。どうやら事前にアルビオンの到着を予測して領民を全て避難させていたらしく、アルビオンが焼き払ったのは無人の村だけだったみたいだからねェ」
「よかった……犠牲になった領民はいなかったのですね……」
あまり良かったとは言い切れない事態だが、焼き払われた村に誰もいなかったのは不幸中の幸いというべきなのだろうか。
「でもこのまま手をこまねいていても、アルビオンを好き放題に暴れさせてしまうだけだねェ。どうにかあのデカブツを破壊なり停止なりさせないと」
確かにその通りだ。
でもどうやればあの怪物を倒せるのだろうか?
ボク達が生身で勝てるほど、古代ゴルガ文明の負の遺産は弱くはない。
「そうねェ。一度忘れ去られし者達の集落に行かないといけないみたいだねェ」
「忘れ去られし者達……それは?」
その時エリアさんが口を開いた。
「ユカ、忘れ去られし者達とは、フワフワ族等を使役していた長命の古代人達です。ゴルガ軍国と戦った私を支持してくれた心優しき光の民、それが今は忘れ去られし者達と言われています」
「エリアさん、その人達はどこにいるのですか?」
「忘れ去られし者達は、遥かなる切り立った山の奥、切り立った山の上に隠れ住みました。天空都市シャマイムが地に落ちた時、生き残ったわずかな民。魔技師ダルダロスの弟子達が移り住んだ誰も知らない土地、そこが忘れ去られし者達の住処なのです」
そんな山の上だと空を飛べる人達以外は誰もたどり着けない。
なるほど、そこに住む人達が忘れ去られし者達といわれるわけだ。
とにかくボク達は一度この場所を出なければ。
ボクが遺跡から外に向かって歩こうとした時、罠が発動した!
「危ないっ!」
なんと、ボク達の目の前の地面が姿を消してしまった。
多分このトラップは入り込んだ相手を外に出さないためのものなのだろう。
そしてこの辺りの壁や地面にもマジックキャンセラーらしき文様が見える。
つまりは空を飛んで脱出することは出来ないようだ。
「ボクの目の前を地面にチェンジ!」
ボクはマップチェンジスキルでその辺りにあった地面を何もない前面に作った。
なぜか普通の地面を作ったはずなのに、物凄く大量の魔力を吸い取られたような気がする……。
そしてボクの目の前に姿を見せた地面は、遺跡の床と同じ土とも金属ともつかない謎の物質で作られた。
「へェ。なるほどねェ……そりゃあ大きくMPが減るわけだねェ」
「エントラ様? 何か知っているんですか?」
「まあここを出てから話そうかねぇ」
ボク達は古代の遺跡を脱出し、盗賊の住処の入り口に戻った。




