609 オルビス・ザイン
ウルティマ・ザインに関する資料はそれ以上見つからなかった。
とにかく今は封印されたウルティマ・ザインは砂漠のどこかにあるということだけがわかっている。
砂漠はグランド帝国の中には存在しない。
そうなるとウルティマ・ザインが封印された砂漠は帝国の外になるので、今すぐ行けるような場所ではないだろう。
「うるしまざんとやらはどうやらこの国の中には無さそうじゃのう。また、ミクニでもヒモトでもそのような砂まみれの土地はなかったので、存在するとすれば別の場所じゃな」
「ウルシマザンではなく、『ウルティマ・ザイン』ですよ。アンさん」
ドヤ顔だったアンさんが沈黙の後、顔を真っ赤にして横を向いてしまった。
「まままっ間違えたわぃ! ま、まあ名前などどうでも良かろうが! 重要なことは名前などよりも、その怪物がどのようなもので、どう対処するかじゃろうがっ」
「そこまで顔を真っ赤にして弁解する必要があるのかねェ……。まあ無様で可愛いけど」
大魔女エントラ様がニヤニヤしながら顔を真っ赤にしたアンさんを見て笑っていた。
「ややややっやかましいわいっ! ワシを愚弄したら許さんぞっえんとら!」
「ハイハイ、わかりましたからねェ。可愛い龍神サマ」
「もうおぬしとは口を聞かんからのうっ。数百年はそう思え!」
あーあ、アンさんが拗ねてしまった。
「あの、お師匠様。イオリ様。そんなくだらないことどうでもよろしいですから、早く続きを調べるべきではないのでしょうか?」
「「くだらないとは何じゃ!(かねェ!)」」
やっぱりこの二人は仲がいい。
ジト目のルームさんのツッコミを二人そろってタイミングピッタリで否定した。
「お師匠様達が数百年口きかないとかどうでもいいので、それよりも残った資料を調べる方が重要ですわ」
「ぬ、ぬう。そう言われれば否定もできんのう」
「まあその方が重要だねェ」
ようやく本題に戻れそうだ。
ボク達が調べた円盤の中には、バロール、ウルティマ・ザイン、それとオルビス・ザインの資料が入っていた。
今ボク達が調べているのはオルビス・ザインのものだ。
「うぐぅ、何というか……不気味な虫みたいですわ」
「何というか、気持ち悪い外見ですね」
今見ているオルビス・ザインはまるで虫のような脚がたくさんある機械だった。
その外見は……言うならば何というか、台所や洞窟にたまに出るゴキブリを巨大化したような見た目だ。
長い触覚のような部分は弱点に見えるが、それを感じさせないほどオルビス・ザインはボク達に圧倒的な力を見せつけた。
「何ですの……これ。バロール以上のバケモノというのでしょうか?」
「これがゴルガの古代技術の粋の結晶体とでもいうべきなのかねェ。これは下手すりゃヘックスのバカより強いかもしれないねェ」
「エントラ様。たまに聞く名前でしたけど、その……ヘックスって何ですか?」
「おっと、そうだねェ。みんなはヘックスのことを知らないんだったねェ。ヘックスとは大昔に妾と一緒に戦った巨大なブラックドラゴンの名前だねェ。竜王ヘックス、おとぎ話とか伝説ではそういった偉そうな名前で呼ばれているかねェ」
伝説の竜王! ヘックス‼
そんな怪物を身内のようにバカにする大魔女エントラ様が凄いのは話を聞くだけで分かる。
しかしその伝説の竜王をも上回る機械仕掛けの巨大な昆虫に見える怪物、それがオルビス・ザインという怪物だった。
「お師匠様、オルビス・ザインの力って……これほど凄まじいのですか?」
「どうやらそうみたいだねェ。コレ相手だと妾やあのヘックスですら勝てないかもしれないねェ」
「うーむ、今見ておる物からしか判断できんが、コレは流石にワシでも勝てるかどうか不安になるのう」
SSSクラスと呼ばれるドラゴンの神様アンさんやレベル80近い大魔女エントラ様ですら勝てないかもしれないと言ってしまうバケモノ。
それが古代文明最強最後の怪物『オルビス・ザイン』だった。




