606 円盤の中身は?
『オイオイ、ブルーレイやDVDデッキもCDプレーヤーも、ましてやデータレコーダーすら無いのにどうやってあのディスクの中身がここで見えると言うんだ?』
『ソウイチロウさん、いつものことですけど……あなたの会話が何を言っているのかが全く分かりません』
本当にこの人は何を言いたいのだろうか。
大魔女エントラ様が銀色の円盤の中身を見せてくれると言っているので、それに関する何かの単語というのは想像がつくけど、それが何を意味するのかがボクには全く理解できない。
「この円盤を見るにはねェ……特殊な作業が必要なのよねェ。アンタには想像がつくだろうけどねェ」
大魔女エントラ様はボクに向けて意味深な目線で語りかけた。
これは間違いなくボクではなく、ソウイチロウさんを意識した会話なのだろう。
「お師匠様、その円盤……私でも見れるのでしょうか?」
「まあ、コツを掴めばねェ。道具が無ければ昔の人は見れなかったのかもしれないけど、妾ならその道具と同じ動きの魔法を再現可能だからねェ」
ボクには意味がまるで分からないが、ソウイチロウさんは大魔女エントラ様の言葉の意味がよく分かったらしい。
『なるほど、光学ディスクの記録を魔法の一種として投影して呼び込むやり方か。言うならば読み込みレンズの部分を魔法で再現するということだな。しかし古代の技術でそんな数千年数万年持つディスクを作る技術があった方が驚きだ。現代の技術だと持っても20年から50年、少し良いもので100年持てば御の字だというのに』
『あの、さっきからボクに全くわけのわからないことを言うのやめてもらえますか!? 頭が混乱してきました』
『あ、ああ。すまない……つい、エンジニア、クリエイターとしては光ディスクがあったことに驚いてしまったのでな』
この人、悪い人ではないけど……たまにボクに訳の分からないことを説明もなくそのまま続けようとするクセがある。
そこだけはどうしても同じ身体を共有していても受け入れられないところだろうと思う。
「まあ見ていれば妾が何をしようとしているかわかるからねェ」
大魔女エントラ様は平らな台の上に銀色の円盤を乗せ、魔法で円盤を高速回転させ始めた。
「今これに触れたらダメだからねェ。折角のデータが読み取れなくなるからねェ」
「のう、えんとら。ワシはたまにおぬしが妖術使いに見えて仕方ないのじゃが……このような面妖な円盤の早回しに何の意味があるのじゃ? しかもよく見ると円盤は宙に浮いておるし」
「あら、そこに気が付いたのねェ。そう、この円盤は接面させて回転させたららダメだからねェ、すぐにデータが見れなくなってしまうからねェ」
「ワシはますますワケがわからなくなってきたわい」
長年生きてきたはずのドラゴンの神様であるアンさんも大魔女エントラ様の奇行がわけわからないんだから、ボク達に理解できるわけがない。
「さて、指を円盤の上に沿わせて……情報を読み解き、反対の手からその情報を投影するのよねェ」
大魔女エントラ様の魔法は、本当に銀色の円盤の情報を目の前の何もない大きな空間に映し出すことができた。
『凄い、マジで人間DVDプレイヤーだな……』
ボクはもう、ソウイチロウさんの言っていることに反応すらしなかった。
これ以上わからない言葉を聞くよりも、今の目の前の必要な映像について知る方がよほど重要だと思ったからだ。
「ほら、ご覧ねェ。みんなの見たかったデータが出てきたからねェ」
「お師匠様、これは……古代語ですか?」
「そうだねェ、これはどうやら……動きのある記録ではなく、バロールに関する資料と言ったところだろうねェ」
古代語なら僕も少しは勉強した。
でも、書かれていた文章はとても難しく、ボクの能力では読み切れないようなモノだった。
「ゴルガ……軍技術者、重要機密事項。禁持出……違反者は死刑。バロール……運用に関する特秘、閲覧権限……軍上層部のみに限る」
エリアさんがスラスラと資料を読み始めた。
それは、やはりバロールに関する案件だった。




