601 創世神と調整神
「皆さんもうご存じかとは思いますが、私の本当の名前は『クーリエ・エイータ』この世界を作った神です」
エリアさんが自身のことを語り出した。
「私がどこでどのように生まれたのかは……後程話します。私は物心ついた頃にはこの世界の神でした。水を作り、大地を作り、植物を作り、動物達を作り、そして最終的に亜人や人間達を作ったのです」
まあここまではよく聞くおとぎ話や神話そのものだろう。
ボク達の世界で信じられている宗教は創世神を信じるもの。
つまりは、ボク達の目の前にいるエリアさんを信仰しているものなのだ。
「光に満ちた世界、そこに住む動物や人達は私を神と称え、そこは平和な世界でした……しかしある時、異界から何者かが姿を現したのです。それが……邪神ダハーカ」
邪神はこの世界ではない別の世界から現れたのか。
「ダハーカは私を信じる人達や動物を取り込み、闇の力で邪悪な力、心を与えてしまいました。そうして世界は争いが起こるようになったのです……私は仕方なく、人間や動物達に……生きる知恵を与えました。それで話は好転すればよかったのですが……そのことは新たな弊害を生んでしまいました」
「新たな弊害……?」
「そうです、知恵を手に入れた人間や動物達は優れた者が弱き者を支配するようになってしまいました……それは確かに生きる知恵だったのかもしれません。しかし、このことで弱き者達は強い者に従うしか出来なくなってしまい、生み出す力しか持たない私は……この世界の維持をすることが難しくなりました」
ソウイチロウさんがボクにこう言った。
『なるほど、つまりは色々と作り出したはいいものの、外部要因のせいでバランス調整が難しくなってシステムが破綻してしまったってわけか。その外部要因に当てはまったのが邪神……ダハーカの存在ってことだ』
この人は、本当に神様の気持ちが理解できるのだろうか!?
彼はボクには理解不能な悩みを共感しているようだ。
「その時、異界から姿を現した者がいました。彼は調整神アジャスト……私の弟です」
「弟? エリアさん弟がいたのですか??」
「はい、その時私は初めて自身が何者なのかを知ることができました。私は、別の神の世界で生まれ、新たな世界を作るためにこの世界にやってきたのです。幼い私はそのことを知らず、自身が何者かわからないまま……作りたいものを色々と試して作っていたのです」
「それが神としてのエリア嬢の力じゃったわけじゃな」
「作ることは出来ても、細かい調整は出来ない。そのため私の作った世界はどこか歪んだような綺麗さで満ちていました。どうやらそれが邪神ダハーカに目を付けられた原因だったようです」
つまり、作ったモノをどのように扱うかわからなかった時に、出来上がったモノを横取りするために現れたのが邪神ダハーカだと考えれば良いのか。
「邪神ダハーカに好きに奪われた私の子達は、彼の手下となり……この世界の無垢な別の子達を苦しめました。それに対抗するために私が知恵を与えた子達でしたが、それはそれで新たな貧富の差や強弱の優劣を生み出してしまったのです。それを調整してくれたのが私の弟、アジャストだったのです」
なるほど、この世界の創世神はエリアさんだが、それ以外にもう一人彼女の弟がいたのでどうにか世界を保つことができた……と考えれば良いのか。
「アジャストには新たに物を作り出す力はありませんでした、しかし彼は私の作った子達を適切に配置し、バランスを考えて能力分配やその生存個所を次々と配置していきました。そのおかげで邪神に対抗できるだけの力を手に入れたのが……古代の民なのです」
「つまり、この遺跡やフワフワ族の遺跡を作った人達のことか」
「そうです……私は、その戦いの話もしなくていけません……」
エリアさんの話はまだ続いた。




