600 邪神のレリーフ
ここは盗賊の住処になる前は邪神の神殿だったと聞く。
だが、ボクが共有するソウイチロウさんの記憶では、ここは隅から隅まで調べたが何も怪しいものは見つからなかった。
でも何だかこの盗賊の住処に入ってから、気持ちの悪さが抜けない。
今ここで無事でいるのはアンさんとエリアさんだけだ。
ボク、ホームさん、ルームさん、フロアさん、サラサさん、それにシートとシーツの兄妹、全員何か違和感と気持ち悪さを感じているようだ。
「ふむ、どうやら過去の罠が発動しておるみたいじゃのう」
「でもなぜ……以前は何も無かったのですか?」
「いや、何も無かったのではない。これは……高い力量に反応する能力低下の呪いじゃ。以前おぬしらがここに来た時は、まだその力量に達していなかったのじゃろう」
つまり、どういうことだ?
『ユカ、これをわかりやすく説明すると、この元邪神の神殿だった盗賊の住処にかけられた呪いは、レベルが高い相手にのみ発動する凶悪なデバフ、能力低下ということだろう』
なるほど、以前のソウイチロウさんや他の人達のレベルだとその魔法が発動するだけの強さじゃなかったということなのか。
「どうやらこれだけ高い力量の者を弾く罠が必要ということは……ここにはよほど重要な物が隠されておるのじゃろう」
「でも、以前ここに来た時に全部の部屋は調べました。隠し扉や隠し通路といったものも全部確認済ですが」
ホームさんがアンさんに返答した。
この盗賊の住処から色々と持ち出したのはボクの身体を使っていたソウイチロウさん、エリアさん、フロアさん、マイルさん、ホームさん。ルームさんだ。
この中でマイルさんはここにいないので残ったのはボク以外に四人だ。
「まあ、ひよっ子冒険者じゃったおぬしらには決してこの隠し部屋は見つけられんじゃろうな……ほれ」
アンさんは手に持った宝玉を高く掲げ、魔力を注ぎ込んだ。
「これだけ高い魔力を持つ者を拒む罠じゃ、それ相応の力で相殺せぬとその実態は見えまいて」
なんとアンさんが魔力を壁に放つと、今まで何も無かった壁が音を立てて姿を消した。
「ほれ、見たか。これが邪神の神殿の本当の姿じゃて」
ボク達が見たのは、壁の向こう側に続く道だった。
「この道は……」
「信じられないですわ、こんな場所にこんなものがあったなんて……」
「おそらく、ここに住んでいた盗賊も知らなかったのでしょうね」
全員がビックリしていた。
「どうやらこの場に邪神の敵が入れないように古代の呪い師が呪いをかけたのじゃろう……この悪意、ワシもビリビリきおるわい」
「ここは……」
ボク達が道の先に進むと、そこに在ったのはフワフワ族の集落の奥にあったあの巨大船が置かれていた場所と同じような作りの金属とも土ともつかない不思議な物体で作られた壁や地面で作られた遺跡だった。
「あの場所にそっくりだ……」
「おそらく、あそこと同じころに作られた物なのじゃろうて、まあよく見てみると多少の違いがあるようじゃから、国が違ったのじゃろう」
遺跡の奥に入っていくと、そこには邪悪な神を模したレリーフと思しき巨大な壁画……いや、彫刻のようなものがあった。
「これが……古代の邪神?」
その姿を見たエリアさんの表情が変わった。
「これは……ダハーカ! 間違いありません。あれが古代の邪神、ダハーカです‼」
邪神ダハーカ。
これがソウイチロウさんの知り合いが魂を売った相手、邪神……なのか。
そこにあった邪神のレリーフは、とても巨大な物で……まるで龍と蛇と髑髏を合わせたような……テスカトリポカをさらに凶悪化させたような姿だった。
「これを見て少し思い出しました、私……『クーリエ・エイータ』と邪神ダハーカの戦いを……少し、話を聞いてもらえますか?」
どうやら、エリアさんがボク達に何かを伝えたいらしい。




