599 我が子達を託す……
銀狼王ロボとブランカがフロアさんとサラサさんに何かを渡した。
「これは?」
『それは、我が魂の欠片だ。我が力を必要とする時、それを握り……我を呼ぶがよい。その時、我は力となろう』
「偉大なる銀狼王よ。この力、ありがたく受け取ろう!」
『いや、礼を言うのは我の方だ。よくぞ……ここまで立派に我が子達を育ててくれた。森の民とその仲間達よ、深く感謝する』
銀狼王ロボはボク達にそう言った。
「銀狼王ロボさん、シートとシーツの兄妹は強くなりましたか?」
『そうだな、あの子達は我を超えた。もう立派に一人前だ、我が保証しよう』
「ワォォーン!」
父親に褒めてもらえてとても嬉しかったのだろう。
シートは高く大きな声で咆えた。
『あの子達は兄妹そろってとても立派に育ちました。母はとても嬉しく思います……』
ブランカさんが嬉しそうに話した。
「銀狼王の妻、この力……お借りする」
『ええ、私とあの人の力が必要な時、それを握って呼んでください。私は必ず貴女達の力となりましょう』
「感謝する、聖狼族の妻」
その後、ボク達と話をしていた銀狼王ロボの姿が少しずつ薄くなっていた。
『どうやらこの姿を保てるのももう少しだけのようだ……』
「クゥウウン」
『そんな悲しそうな顔をするな。お前達は誇り高き聖狼族の最後の兄妹なのだぞ。もっと、強く……誇り高く生きるのだ!』
話をしている間にも銀狼王ロボの姿がどんどん薄くなっている。
『泣くでない、我は消えるが……その魂はいつもお前達と共にある。我が子よ、力強く、誇り高く生きるのだ……』
「ガオォオオオーン!」
「ワォオオーン‼」
森にシートとシーツの双子の叫びが轟いた。
それは偉大な父への誓いの叫びだったのだろう。
『さらばだ……我が子供達よ……』
そう言い残し、銀狼王ロボは姿を消した。
「銀狼王……」
ボク達は銀狼王の消えた上空をしばらくの間眺め続けた。
そして、しばらく経った後、ボク達は再び崖の上の銀狼王ロボとブランカの墓標の前に立ち、二匹のために祈りをささげた。
「さあ、戻ろうか」
「ぬ……少し待て、ユカ坊、おぬし……この場に何か感じぬか?」
「え? 何かって……何ですか?」
「ユカ坊、この場所にはかつて何があったのじゃ?」
「何って……盗賊の住処です。ボク達が全部やっつけてここにいた人達も全員助けました」
アンさんは誰もいなくなったこの場所に、何かがまだここにあると言うのだろうか?
「ぬう、何やら邪悪な魔力を感じるわい。それは決しておぬし達には分からなかったじゃろうな……ルーム嬢、エリア嬢、おぬし達は何か感じぬか?」
アンさんが名指しした人達は二人共ここに来たことがある。
その時は確かに何もなかった。
なぜならボク達がここを出る前に全部の部屋や隠し通路に至るまで全部調べたからだ。
「! 何ですの?! この邪悪な気配は‼」
「気持ち……悪い」
「ほう、気が付いたようじゃのう……これは、高レベルの魔力持ちで無ければ感知できぬじゃろうて、まだひよっ子じゃったおぬし達には決してわからなかったじゃろう……」
そういえば確かに……何かこのかつての盗賊の住処に入った後、全員何か不快感を感じているようだ。
「これは高度の魔法に対して感知する罠のようじゃな、おかしいと思わぬか? たかだか盗賊の住処ごときにそのような高度な魔力の罠があるわけがなかろう……」
「では、ここにはまだ何かあると言うのですか?」
「そうじゃ、ここにあるのは……相当邪悪なモノじゃな。それもかなりの昔からあったのじゃろう」
「つまり……盗賊の連中って、ここをそういう場所だと知らずに使っていた……というわけですか?」
「そうじゃろうな、一部の魔力の高いもの以外は誰も気が付くまいて」
知らなかった。
ソウイチロウさんがボクの身体でこの場所で盗賊達と戦ったのは覚えているが、ここがそれほど重要な場所だったとは……とても気が付かなかった。




