598 父を超える時!
◆◆◆
シートは崖を爪で一気にかけ上り、勢いをつけたまま、上空高くから地面に向かって飛んだ。
『シーツ、頼んだ!』
『わかった! お兄ちゃん』
その下の位置で人狼化した銀狼王ロボの脚に噛みついたシーツは、足を踏ん張り、大きく身体を回転させた。
『くっ、動けんっ!』
『お父さま、ごめんなさいっ!』
シートによる回転は速度を速めてどんどん大きくなり、それは竜巻のような勢いにまで拡大した。
辺りの木々がなぎ倒され、丸い形に地面が抉れる。
『キャアアァァッ!』
回転は周囲の物を次々と巻き込み、人狼化したブランカもその内側に巻き込まれてしまった。
『お兄ちゃんっ!』
シートは勢いよく回転させた自らの父親を上空高くに放り投げた。
『グオァァァァアッ‼』
流石にSSクラスのレベルの銀狼王ロボでも、この勢いに抵抗することは出来ない。
上空で防御の出来ないきりもみ状態になった彼は格好のターゲットだった。
『行くぞぉォォォオッ!』
野生の勘でタイミングピッタリに崖から跳躍したシートは、勢いよく前転を始めた。
その回転はどんどん速くなり、銀色の突風と化する!
『何!? あの技は……‼ そうか、ついにそこに辿り着いたのか』
銀狼王ロボは前方から迫りくる我が子を見て、何か安心したように抵抗をやめた。
『見事だ!』
『ぼくはお父さんを……超えるっ!』
ズザシュッッ!!
銀狼シートの鋭い牙と爪の縦回転攻撃がクリティカルに銀狼王ロボとブランカを捉えた。
『グハァッ!』
上空高くでぶつかった親子は、その勢いのまま、地面に激しく叩きつけられた。
ズガァァァアアンッッ!!
地面に激突した銀狼王ロボはもう動けなかった。
それに対し、その息子であるシートは、フラフラになりながらも……しっかりと四本の脚で立ち上がった!
『やったっ! ぼくは……お父さんに勝ったんだ‼』
嬉しそうなシートのそばに、シーツが駆け寄った。
『お兄ちゃん、わたしたち、勝ったのね!』
『うん、ぼくたちが……お父さん、お母さんに勝ったんだ‼』
そして、二匹の兄妹の勝利の叫びが森とその上空の崖に轟いた。
◆◇◆
「ワォオオオオオーン!」
ボクは下の森から聞こえる叫びを耳にした。
「どうやら、決着がついたようじゃのう」
「あの叫び声は、シートか」
「そうじゃな、どうやら父親を超えることができたようじゃのう……ほれ、下に降りてみるか」
そう言うとアンさんが下に飛び降りた。
ボク達もそれを追うように崖の上に残っていた全員で崖の下の森に向かった。
ボク達がシートたちのいる場所に到着すると……彼らは傷だらけの身体でじっと立ち尽くし、空を見上げていた。
「なんてひどい怪我、私が治します……レザレクション!」
エリアさんのレザレクションで傷だらけの身体を癒してもらったシートとシーツは、安心したかのようにその場に倒れ込んでしまった。
「ふむ、相当無理しておったようじゃのう。緊張の糸が切れたと見えるわい」
「……ン、俺は……そうだ、銀狼王ロボとアイツらの戦いはどうなった!?」
エリアさんが傷を癒したことで、銀狼王ロボに身体を貸していたフロアさんが意識を取り戻した。
『彼らの勝ちだ……』
「その声、銀狼王か!」
『そうだ、我は満足だ。我が息子は立派に成長してくれた。シート、シーツ、二人共……彼らは見事、我をその爪と牙で倒した。もう立派に一人前だ』
銀狼王ロボの声がボクにも聞こえる。
『あなたがたのおかげです。わたしはあの子達を誇りに思います。よくぞ、あれだけ立派な子に育ててくれました。本当に、ありがとうございます』
ブランカさんの声も聞こえてきた。
とても優しそうで品のある女性といった声だ。
「うむ、そなた達の子供はもう立派に一人前じゃ。ワシが保証するわい」
『感謝する……異国のドラゴンの神よ』
「我が子達を育ててくれた者達よ、これを受け取って欲しい」
銀狼王ロボは何かをボク達に渡してくれた。




