596 親と子の対決
シートとシーツの双子の初めての戦いは105話~108話で読めます
フロアさんとサラサさんの姿は、人狼になった。
これは獣人である二人に銀狼王ロボとその妻ブランカの魂が宿ったことによるのだろうか。
「素晴らしい! この身体なら我の本当の力を発揮できそうだ!」
銀狼王ロボは、手の鋭い爪で兄のシートに斬りかかった!
キィインッ!
しかしシートは前脚の爪でそれを弾き、後ろに跳んで回転して着地した。
「ガウゥゥッ!」
「やるではないか、我が息子よっ!」
人狼の姿の銀狼王ロボは嬉しそうに笑った。
「だがっ! 戦いは正攻法だけではない!」
彼がそう言った瞬間、崖の上から大きな石がいくつも落下してきた。
そう、これは銀狼王ロボが攻撃を仕掛ける途中で何度も崖にヒビを入れることで少し時間が経ったら崖が崩れるように仕向けたのだ。
落石から妹を守ろうとシートはその身をかばおうとした。
しかしそんな彼を銀狼王ロボの爪と牙が襲う!
「甘いっ! 戦いの中では身内すら見捨てる非情さが無ければ……死ぬぞ!」
「ガウゥウウウンッ!」
爪と牙をかわしたシートだったが、その直後銀狼王ロボの鋭い蹴りが彼ごとシーツにめり込んだ。
「ギャオオオンッ‼」
蹴り弾かれたシートの身体は妹のシーツもろとも宙に跳ね上がり、そのまま崖の下に落ちていった。
「落ちたか……だがあの程度で死ぬほど我が息子はやわではない……ブランカ、行くぞっ!」
「ハイ、アナタ……」
銀と白の二匹の人狼は、シートとシーツの二匹が落下した崖の下の森目掛けて二人そろって飛び降りた。
「ユカ坊……これは彼らの戦いじゃ。親を超えるための戦い、決して避けられぬ戦いじゃ。この戦いを乗り越えた時、あの二匹は大きく成長するじゃろう」
アンさんが鋭い眼光で二匹の人狼が飛び降りた森を見降ろしている。
ここはボク達が手を出せない領域、あの兄妹が超えなくてはいけない試練なのだ。
◆◆◆
シートは感じていた。
今までにないほどの強敵、それは……実の父の気配だった。
彼のそばには妹のシーツがいる。
二匹はお互い背中を寄せ合い、互いに反対を見られるように位置を取った。
彼らがこのような戦い方をしたのは初めてではない。
シートとシーツは生まれて間もない頃、森でゴブリン達に襲われ、二匹で協力してゴブリンとブラッディーウルフを倒した。
その時も二匹で協力して勝てないはずの敵に立ち向かったのだ。
その時の戦いこそが聖狼族のシートとシーツの生まれて初めての勝利だった。
そして今、誇り高き聖狼族の親子は、その持てる力の全てを使い、戦っている。
双方とも今やレベル50以上のSSクラスだと言えよう。
この親子の戦いに水を差すものは誰一人としていなかった。
下手に間に入ったら間違いなく殺される。
この森にすむ最強モンスターである凶悪なレベル30以上のツインベアですら、今の彼らに比べたら子熊にも等しい。
シートとシーツの双子は、縦横無尽に襲い来る銀狼王ロボとブランカに対等に戦っていた。
まだ生まれて一年にも満たない彼らがそれほど強くなれたのは、間違いなくユカやその仲間達と共に数多くの死闘を潜り抜けてきたからだろう。
銀狼王ロボとブランカ、シートとシーツの戦いは木々をなぎ倒し、岩を砕き、池の水を全て吹き飛ばすほどだった。
そのあまりの死闘ぶりは、崖の上から見ていたユカ達ですら木々が次々と斬り倒され、激しい音が辺りに鳴り響くことで伝わっている。
「二匹とも、大丈夫だろうか……?」
「心配するでない。あの二匹なら必ず両親を乗り越えられるわい」
「でも……心配ですわ」
「ルーム、僕達は以前もこれと同じような光景を見たはずだ。今は彼らを信じよう」
「シート、シーツ……無事でいて下さい……」
ユカ達の仲間全員が双子の無事を信じている。
その頃、崖の下の森では親子の対決に決着がつこうとしていた。




