595 誇りをかけた戦い
フロアさんとサラサさんの身体を借りた銀狼王ロボとブランカはシートとシーツの二匹の双子を睨んだ。
「どうした? 怖気づいたのか?」
双子はどうしていいのかわからず、戸惑っている。
それもそうだと思う。
今フロアさんとサラサさんの中に居るのは彼らの両親なわけで、もうそうでないとしてもその身体自体は普段から一緒に旅をしている仲間で、彼らの理解者と言えるフロアさんとサラサさんなのだから。
「クゥゥン……」
「情けない奴め! そんなザマで聖狼族を名乗れると思っているのかっ!」
フロアさんの身体が普通の人間ではありえない速さで跳躍し、その蹴りは一瞬でシートの身体を崖に叩きつけた。
ドガッ!
勢い良く叩きつけられた崖が崩れる。
フロアさんの身体から放たれた蹴りはシートの身体にいきなり普通なら致命傷になるダメージを与えた。
「何だその目は、そんな腑抜けた目で我を倒せると思っているのか!?」
彼が今放っている声はフロアさんのものだ、しかしその話し方は明らかにフロアさんではなく、銀狼王ロボのものなのだ。
「グルルウゥ……」
口から血を吐きながら、シートが立ち上がった。
横には彼を気づかう妹のシーツも寄り添っている。
「兄妹仲がいいみたいね、母は安心しました……でもっ! いつまでそれが続くのかしらっ!」
今度はサラサさんの身体を借りたブランカが双子を殴る蹴るする。
まだ人間の動きに慣れていないはずなのに、彼女はその身体を使いこなしている、凄い戦闘のセンスだと言える。
「母はあの人よりも速さに優れています。一撃の力が弱ければ、それだけ速さと回数で補えばいいのですよっ‼」
一撃の攻撃力の高い銀狼王ロボ、そして力は劣るが素早さに勝るブランカ。
この二人のコンビネーション攻撃は双子の身体を滅多打ちにしていた。
シートとシーツは万を超える魔族の大軍団と対等以上に戦っただけのレベル、今ならレベル50以上だと言える。
本来の彼らなら、ドラゴンですら倒せるレベルだ。
だがフロアさんとサラサさんの身体を使った銀狼王ロボとブランカの強さはそれを大きく上回っているらしい。
「グルルルガァァァッ!」
全身から血を流しながらシートが立った。
それを支えるようにシーツが横に立とうとしたのを、彼は拒否した。
「ほう、目が変わったな……良い目だ。それでこそ我が息子だと言えよう!」
銀狼王ロボは嬉しそうに笑った。
それは、子供と一緒に遊ぶ父親のような嬉しさだったのか。
「だがっ! 気持ちに力が追い付かなければ……非力!」
銀狼王が鋭く跳躍し、シートに蹴りを入れようとした。
だが、その動きを予測したシートは避けようとせず、かかとを立てて金属製の爪を引き出して銀狼王ロボの攻撃を待ち構えた。
「! な、何だと!?」
ザシュッ!
フロアさんの身体にシートの爪が深くえぐり込まれる。
防戦一方だったシートが初めて父親に対して反撃できたのだ。
「ぐはっ! くっ、やるではないか……」
胸から血を流したフロアさんの身体で、銀狼王ロボは嬉しそうにその血をぬぐって舐めた。
「うむ。どうやらこの身体と我が魂が馴染んできたようだ。ではそろそろ本気を出させてもらおう……」
「アナタ、この身体もわたくしに馴染んできたようです。それでは、行きましょう……」
「そうだな、我が子供達よ、父の本気を見るがよい!」
「さあ、母も本当の力を見せましょう。覚悟するのですよ」
なんと! 銀狼王ロボとその妻ブランカは獣人であるフロアさんとサラサさんの身体を使い、自らの魂を覚醒させた!
彼らの変化した姿は、獣人ではなく、銀色と白色の人狼とも言えるようなモノだった。
「さあ、これからが本当の戦いだ。我が子供達よ、死ぬ気で向かってこい!」
二人の人狼が双子の狼の兄妹を今にも殺さんと言った目で睨みつけた。




