594 銀狼王の親子
『』の中のセリフは本来は動物の鳴き声です。
その内容がわかるように『』をつけた会話にしています。
大きな牙で出来た墓標は、盗賊退治をした時にソウイチロウさん達が作ったモノだった。
ボクはソウイチロウさんと記憶を共有しているので、その状況を覚えている。
双子の狼の兄妹であるシートとシーツの二匹は、牙で出来た墓標の前で高く咆えた。
「ガウォオオオオン!」
「ワォォォーン!」
二匹の叫びが山に遠くこだまする。
そして二匹の兄妹はその場に座り込んだ。
多分、ここが二匹のお父さんとお母さんの眠る場所だとわかっているのだろう。
「ユカ様、サラサが何か伝えたいようです」
フロアさんがボクにサラサさんのことで話をしてきた。
「ユカ様、ここ……眠る者、声を伝えたいと言っている」
「ユカ……聞こえます。銀狼王ロボ、そしてその妻であるブランカ……伝えたいことがあり、力を貸して欲しいと言っています」
サラサさんだけではなく、創世神の半身であるエリアさんも双子の両親の想いを感じたらしい。
「ふむ、具現化するのに力が欲しいようじゃな。ワシの力を貸してやろう」
「私の力も……与えます」
エリアさんとアンさんがそれぞれ牙の墓標に触れると、墓標はほんのりと光り、その上空に巨大な半透明の狼が姿を現した。
その姿は生前の銀狼王ロボとその妻であるブランカのものだった。
二匹は何かを伝えようとしている。
残念ながらボクには何を言っているかわからないが、フロアさん、サラサさん、そして彼らの子供であるシートとシーツの二匹の兄妹はロボとブランカが言いたいことが伝わっているようだ。
『森の民とその仲間達よ、我に子供に会わせてくれたことを深く感謝する……立派に育ったものだな……』
『お父さん』
『あなたは、お母様?』
『ええ、立派になりましたね、母はお前達の姿を見る事ができて、とても幸せです』
何を言っているかわからない。
でも双子の狼は上空の両親を見て、とても嬉しそうに、でも悲しそうに哭いている。
『貴公、もしや銀狼王か……その噂は聞いたことがある』
『そう言う其方は、誰だ?』
『わたしはオソイ……白き獣とも呼ばれている……』
『そうか、我もその名は聞いたことがある……白く、強き獣よ。其方は森の民の従者か?』
『左様、フロア様はわたしの主。主に危害をなす者はわたしの牙で砕く』
フロアさんの上に白い獣オソイの姿が現れている。
どうやら二匹は何かを話しているようだ。
『其方なら我が子供達を見守ってくれそうだな』
『よかろう、誇り高き銀狼王よ、貴公の子供はわたしが見守ろうではないか』
『感謝する……白き獣よ』
ボクには彼らが何を言っているのかわからない。
だがフロアさんやサラサさん、アンさん達は彼らの会話を理解しているようだ。
『我が子達よ、立派になってくれた。我はとても嬉しく思う……』
『お父さん……』
『だが、お前達は今のままでは強くなれぬ、お前達には非情さが足りんのだ!』
『お父さん!?』
『森の民よ、我と妻の願いを聞いてはくれぬか?』
『銀狼王よ、俺に何を望むのだ?』
『其方の身体を貸して欲しい』
『わかった、俺の身体を使ってくれ』
『感謝する……』
何だか感動の親子の対面、といった雰囲気ではなくなってきた感じだ。
「ユカさん、今から俺とサラサはあの双子二匹と戦います! 決して、手を出さないで下さい!」
「ユカさん、これ……彼らの問題、我、白き狼の願い聞き届けた」
そしてフロアさんとアンさんはその場に立ち尽くし、動かなかった。
その直後、上空にいたはずの銀狼王ロボとその妻ブランカの姿がフロアさんとサラサさんの身体に入るのをボクは見た。
「ぬう……これが人間の身体か、動かすのに慣れるには少し時間がかかりそうだな」
「アナタ……こちらのメスの身体も、同じみたいですわ……」
フロアさんとサラサさんの様子が変わった!
どうやら今の二人には銀狼王ロボとブランカが乗り移っているようだ。
「さあ来い、我が子達よ。お前達の力、父に見せてみよ!」




