592 古の巫女の舞
バグスの追撃から逃げたボク達はワープ床で冒険者ギルドの町に移動した。
どうやら、あの時間式消滅の罠と組み合わせたワープ床は本当に消滅したようだ。
少しの間臨戦態勢を取っていたボク達だったが、その後を追ってバグスがワープしてくる様子は見られなかった。
「ど、どうやら助かったみたいですね」
「妾も流石にアレはやってられないねェ」
「まったくじゃ、魔力が一切使えない場所って、あんな技術が古代にはあったというのか?」
あの凶悪なバグスからの追撃を逃げてきた全員がヘトヘトに疲れている。
今ここにいるのは、ボク、エリアさん、ホームさん、ルームさん、フロアさん、サラサさん、ウルツヤ様、アンさん、大魔女エントラ様、それにシートとシーツの双子……どうにか全員が逃げることに成功したらしい。
「救い主、ここ……どこ?」
「ウルツヤ様、ここはボクの使える部屋です、どうぞ少し休んでください」
「救い主、感謝する」
ウルツヤ様はこの中でも高齢だ。
ボク達は彼の体に無茶をさせないように、少しここで休んでもらおうことにした。
「あのねェ……ユカ、ここにも高齢の妾がいるんだけど……休ませてくれないかねェ」
「ダメです、エントラ様はここに無造作に放り込んだあの銀の円盤を全部片づけてください!」
「わかったわよっ。そこまで怒らなくてもねェ……」
「阿呆か、お主は。自業自得じゃ。そこに在る円盤、全部一人で片づけるのじゃな」
大魔女エントラ様は部屋に一人残され、無造作に放り投げた円盤を全て一人で片づけることになってしまった。
「仕方ないねェ、それじゃあ一気に片付けるかねェ!」
そう言うと彼女は、魔法であっという間に無造作に積まれていた透明な箱に入った円盤をキレイに部屋の一か所にまとめた。
「まあ、こんなもんだねェ」
「できるなら、最初からやってくださいっ!」
「そう言ってもねェ、あの船ではそこまでも思いつかなかったんだってねェ」
たまにこの大魔女エントラという人物がわけわからなくなってくる。
凄い高齢の賢者様みたいなくらいだったかと思えば、その辺りの女の子と大差変わらないボケっぷりを見せたりする。
少し呆れたボク達に弁解するように、大魔女エントラ様が話し出した。
「妾はこの円盤を少し調べてみるからねェ。少し時間が欲しいんだねェ」
そういうと彼女は冒険者ギルドのボクの部屋に閉じこもってしまった。
少し元気になったウルツヤ様もボク達と一緒に部屋から追い出されてしまった。
「救い主、災厄の魔女様、一体何、はじめた?」
「さあ、実はボクもよくわからないです」
実際、部屋に籠ってしまった大魔女エントラ様は食事の時間でも一切出てくる様子はなかった。
彼女を部屋に残したボク達は、冒険者ギルドの人達に盛大に歓迎され、その日は大宴会になった。
ウルツヤ様やサラサさんも初めて見る料理にビックリしていたが、その後すぐにこの場に馴染んでいた。
「ウルツヤ様。我、こんな料理初めて見た」
「サラサ、フロア殿のため、この料理、しっかり覚え、帰り作れ」
「わかった、ウルツヤ様」
サラサさんはすらりとした長身の獣人だったので、冒険者ギルドにいた男の冒険者達がみんな釘付けになっていた。
他にもボク達のメンバーはエリアさん、ルームさん、アンさん、全員美人美少女ばかりだとも言えるので、全員が冒険者ギルドでもみくちゃになるくらい大人気だった。
大魔女エントラ様は部屋に籠って調べものをしているのでここには来ていないが、彼女がいたらやはりその妖艶な美貌に大勢の冒険者が釘付けになったのかもしれない。
サラサさんは宴会の中でフワフワ族に伝わる舞いを披露してくれた。
どうやらその動きは古代から伝わる巫女の舞らしい。
「!? 何か、感じた!」
その時、サラサさんが何かを感じたようだった。
「ユカ様……何か、この近く、親が子供を呼ぶ声が聞こえた」
親が子供を呼ぶ声? 一体何のことなのだろうか??




