590 バグスの正体
ホリグチ……それがバグスの正体なのか!
「やめてください! 私は貴方と戦いたくありません!」
「煩いなァ! 邪魔なんだよォ! さっさと消えなァ!」
バグスは辺りにある物にコインを次々と投げ出した。
コイツの能力はコインでものを破壊する力なのか?
『ユカ、何を考えている!?』
『ソウイチロウさん、あのバグスがホリグチって転生者なんですか?』
『信じたくはないが……どうやらそうらしい。そして、彼の能力はおそらくユカの考えているような能力では……ない!』
どういうことなのか? ソウイチロウさんが言うに、バグスの能力はコインで物を破壊する力ではないと言っている。
『それじゃあ、あのでたらめなスキルは一体何なんですか!』
『おそらく……私の予測では数値変換だ』
「数値変換!? 何ですかそれ??」
ソウイチロウさんはバグスの能力が数値変換というものだと言っている。
『ソウイチロウさん、その数値変換ってスキル、一体どんなものなんですか!』
『数値変換は……自在にバグを起こす技だ。この世界を司る数値が存在するとして、彼はその数値を自在に操ることができる、つまり……壁を自由にすり抜けたり、重要なアイテムを消去したり、そこに有った建物を一瞬で瓦礫にしたりできる能力というわけだ』
何だその能力!?
ボク、あるいはソウイチロウさんが使うマップチェンジもかなりの最強能力だが、あの転生者ホリグチとやらの今のバグスが使う能力は……世界の在り方をメチャクチャにしてしまえるとんでもない能力だった!
『虎に翼とは言うが……まさか最高のゲームクリエイターに自由自在に数値を操れるバグのスキルがあるなんて……』
あの普段冷静なはずのソウイチロウさんが驚愕している。
それほど……あのバグスの持つ数値変換というスキルが恐ろしいものなのだろう。
「堀口さん、何でこんなことをしているんですか!」
「そうかァ、ユカの中に居たのは、ボクの元の世界にいたヤツなんだなァ。これで納得したよォ、アレだけ効果的にマップチェンジスキルを使いこなせる現地人がいるわけがない……これはゲームのシステムやシナリオ、マップ構築に精通している転生者だろうとは薄々感じていたけどねェ」
ボクには謎の言葉だったが、ソウイチロウさんは全て理解しているようだ。
『数値を入れ替えるだけ……経過より結果……これは堀口さんの口癖そのものだった……でも何故、あの人が人間では無く魔族に与しているのだろうか……?』
ソウイチロウさんは何だか悲しそうな声で心の中で呟いている。
「堀口さん、何で貴方はこの世界をメチャクチャに壊そうとしているのですかっ!」
「フン、人間が……大嫌いだからだよォ! 人間は裏切る。人間は都合が悪くなると途端に手を切って見捨てる。ボクが……どれだけ何度も裏切られて死んだか、想像がつくのかよォ!」
彼の声は地の底から響いて来るかのような、憎しみに満ちた声だった。
「私は貴方を探しました。あの仕組まれた銀行屋、証券マンによる会社乗っ取り計画、そのための映画計画の大失敗、アレは全て貴方を陥れるための罠だったんです! 私達開発チームは何が何でも堀口さんを守ろうとしました。しかし、巧妙に仕組まれた合併時の新規労働契約書で私達は制作チームをそれぞれがバラバラにされてしまい……新社長に別部署や子会社に分けられてしまって堀口さんを見つけることができなかったのです!」
どうやら、ソウイチロウさんの前の世界での話のことみたいだが、ボクには何を言っているのかわからないので彼に任せておこう。
「綺麗ごとならいくらでも言えるッ! 何故……実力で副社長にまでなったボクが、クレーム対応の島流しの追い出し部屋に閉じ込められたッ!? ボクがいなくなった途端、お前達が無能でクレームが出る様なものばかり作ったからだろうがァッ!」
「それは違います、あの和田原社長が古参ユーザー無視の劣化リメイクとコンテンツの焼畑商法ばかりやっていたからですっ!」
バグス(ホリグチ?)とソウイチロウさんの言い争いは長い間続いた。




