587 知識欲の導火線
ボク達はその後も大型船の中枢部を色々と探した。
先程の銀色の円盤を見る方法を試すと、他にも様々なモノが映った。
でもその大半がボク達にはまるで理解出来ないモノだった。
だが、大魔女エントラ様、アンさん、そしてボクの中のソウイチロウさんは三人ともがその内容を理解しているようだった。
「お師匠様、これは一体何を意味しているのでしょうか? ただの丸い絵と細長い棒ばかりが出てくるばかりで、後は格子模様の中に書かれた文字、意味が分かりませんわ」
「フフフ、これは意味が分かるととても便利なモノなんだけどねェ。そうねェ……わかりやすく説明してあげると、これは大昔の一年分の軍事にかかった材料や人員を計算したモノかねェ……」
ルームさんはそれでも頭を混乱させているようだ。
正直いってボクもこの絵が何を意味しているのかがまるで分らない。
『ふむ、これはどうもエクセルデータみたいなモノだな。大昔にまさかこれだけ詳細のわかる細かいデータを作っていたとは、驚きだ!』
『ソウイチロウさん、ボクには意味が全く分かりません。コレは一体何なのですか?』
『ユカ、この船は戦艦だということは分かるか? つまりは戦うための船だ。このデータというのは、その戦艦を数値で分析したモノと言えるだろう。残念ながら私はこの文字が読めないのでおおよそのイメージでしか分からないが……』
つまり、ソウイチロウさんはこの絵の意味が分かるが、中の字が読めないので何を意図しているモノなのかはわからないということらしい。
「これって……さっきの黄金の巨人?」
ボク達が見ている円盤の中にあったモノは、先程映っていた巨大な黄金の巨人のデータと呼ばれるモノだった。
「へェ……これがさっきのエリアちゃんの言っていたダルダロスだねェ……フフフ。って、何……コレ!? 信じられない、こんなものまであるなんて!」
大魔女エントラ様がダルダロスのデータを見て驚いていた。
どうやら彼女はこの古代の文字が読めるらしい。
「エントラ様、一体なんて書かれているのですか?」
「ダルダロス……大国ゴルガの巨大兵器、バロールに対抗するために作られた黄金のゴーレム。我が国クリエリアを守る守護神、その制御方法は別データに保管。決して外部に出してはいけない。もし、これをゴルガが手に入れることになれば、世界は破滅してしまう」
『ゴルガ』おとぎ話で聞いたことがある名前だ。
かつて悪魔の国があり、その力は世界を支配した。
しかしゴルガはその強すぎる力を使い切れず、自ら滅びたという。
ただのおとぎ話だと思っていたのに……ゴルガが存在したとは!
「ゴルガ……悪魔の名前、ゴルガ支配する大悪魔、その名……ダハーカ」
「ダハーカだってェ!! まさか……話が全部つながってきたねェ!」
大魔女エントラ様が何かを掴んだらしい。
「ゴルガ、ダハーカ、そしてアルビオン……全部つながっていたんだねェ……あとはゾーン……さあ、もう少し調べるよ! 読めないモノは全部アタシが読んであげるからねェ!」
興奮のあまり、大魔女エントラ様の口調が変わっている。
本人は普段の口調のつもりで話しているのだろうけど、明らかに言い方が別物だ。
「これも、これも、そしてこれもッ! 全部、そう、全部だからねェ!」
ソウイチロウさんでも理解できなかったあの図を大魔女エントラ様が完全に把握している。
どうやらこの場所は彼女の知識欲の導火線に火をつけてしまったらしい。
「え、えんとら……おぬし、目が血走っておるぞ……少し落ち着くのじゃ」
「黙れ、お子様! ぼうっとしているヒマがあったらアンタも手伝うんだねェ! 古代語くらい読めるでしょ!」
完全に興奮状態の大魔女エントラ様はその後もしばらく止まらなかった。




