583 中に入れない!
あの空を飛ぶ巨大船と同じ材質で作られているのだろうか、ここにある船の残骸は見たこともないような金属で作られていた。
「これは残骸というよりは、作りかけの途中で廃棄されたみたいだねェ。動く前に廃棄したみたいだから……動力とかどうやって飛ばしたのかすらわからなくて、まるでお手上げだわねェ……」
大魔女エントラ様ですら、この大型船が動く理由がわからないようだ。
「うむ、ワシもさっぱりじゃ。ミクニ……いや、それより以前のヒモトの伝承には『ヒモトの民、天行く船より水面の地に神作りた島に降り立つ。其の者ヒモトの王となりて建国せし。』という話はあるので、天行く船の名前は知っておったが、今やその船のある場所すら誰も知らぬときたものじゃて……」
どうやらアンさんの話だと、ヒモトと呼ばれた国の人達はこの空を飛ぶ船に乗って今のミクニの土地に降り立ったというらしい。
「へェ。それじゃあミクニのどこかを探せばその空飛ぶ船の残骸なり、降りた場所なりを見つけることができるってことかねェ」
「無論じゃ。じゃが、そんな悠長なことをしておるヒマは無いぞ。あの空飛ぶ船は今も何処かの土地を蹂躙しておるのじゃ。一刻も早くあの船を叩き潰さねば、犠牲者が増える一方じゃて」
そうだ、あの空を飛ぶ巨大戦艦が公爵派貴族の手にある限り、この国はいつまでも奴らの思うがままだ。
「でもどうやったらあの船の中に入れるのかねェ。入口はここにはなさそうだねェ」
そう言いながら大魔女エントラ様は船の残骸の上の方を見上げていた。
かつて存在したであろう階段か梯子、もしくはエレベーターとかいうものは壊れているらしく、船の甲板にまで上がる方法が見つからないようだ。
「お師匠様、ここでは私も空を飛べませんわ。マジックキャンセラーとかいう仕掛けのせいでしょうか?」
「恐らくそうだねェ。これでは妾どころか、イオリも変身して飛ぶこともできないだろうねェ」
「無念じゃがその通りじゃ。ワシが龍の姿になれれば、飛べずとも巨大な体を斜めにすることであの船に乗るくらいできるのじゃがな……」
どうやらマジックキャンセラーの力は、アンさんがドラゴンになるだけの力も奪ってしまうようだ。
このままではあの船の甲板に上がることができない。
『ユカ、お前の能力はマジックキャンセラーの影響を受けなかったはずだ。それならマップチェンジスキルで地面を階段か坂にしてみてはどうだ?』
『そうか! その手があったんだっ!』
ソウイチロウさんのアドバイスはやはり的確だ。
ボクは彼の言うようにマップチェンジスキルで甲板まで届く階段を作った。
「ボクの目の前の地面を少し高い階段にチェンジ!」
「成程、ユカ坊のすきるがあったか。それなら甲板に上ることもできるじゃろうて」
ボクがマップチェンジスキルで作った階段で全員が船の残骸の甲板に上る事ができた。
「上に登れたのは良いのじゃが、この船……中に入る場所が見当たらんのう」
「ユカ、これを見てみるんだねェ」
大魔女エントラ様が船の入り口らしき場所を発見した。
しかしその入り口は固く閉ざされていて、横に入る扉はどんな方法でも開くことは出来なかった。
「魔法が使えないと妾はお手上げだねェ。まさかここまで無力感を感じたのは長い間生きていて久々ってとこだねェ……」
「悔しいがワシも同感じゃ。あの忌々しいまじっくきゃんせらーとやらは一体何のために作られたのじゃ!?」
ボク達は甲板から船の中に入る方法が見つからず、途方に暮れていた。
そこでヒントをくれたのはやはりソウイチロウさんだった。
『ユカ、入口が無いならむしろ足元の甲板に穴をあけて階段にしてしまえばどうだ?』
『なるほど! その手があったんですね』
ボク達はソウイチロウさんのアドバイスのおかげで船の中に入れそうだ。
「この船の甲板を下の階につながる階段にチェンジ!」
そして、ボクの作った階段のおかげで、ここにいたみんなが入れなかった船の中にようやく入ることができた。




