582 渓谷の底に在ったモノ
小部屋に閉じ込められたボク達は、いきなり下に落下する部屋の中で動けなかった。
『やっぱり罠だったじゃないか! もうソウイチロウさんの言うことは信用できません!』
『ユカ、落ち着け。だからこれはエレベーターだって!』
『そのえれべたーってが罠の種類の名前なんでしょう!』
ボク達の閉じ込められた部屋はどこまでも下に落下していく。
このままではオシマイだ。
幸い僕のマップチェンジスキルは、移動床を作ってその移動先の場所だけでなく高さも選ぶ事ができるようだ。
最悪それを使えばいいのだが、この落下速度では体が思ったように動かない!
なすすべもないままボク達は地の底まで落下していった。
『だから落ち着け! もう速度が戻ってるぞ!』
『もうアンタの言うことは信用できませんっ‼』
『だから落ち着けッ! 仕方ない、身体の主導権を使わせてもらう!』
ソウイチロウさんは勝手にボクの身体を動かし始めた。
そして何かの板を操作し、不思議なことを始めた。
「みんな、落ち着いてくれ。コレは罠じゃないから」
ソウイチロウさんは勝手にボクの思ってもいないことを言っている。
「でもアンタ、この落下する部屋、罠じゃないなら何だって言うのかねェ!」
「これは古代文明の機械です。簡単に言えば、上下に移動する階段代わりの小部屋……ってとこですね」
ソウイチロウさんは唯一焦りもせずにこの状況を説明していた。
『階段代わりの小部屋? それがれれーべーたーとかいうものなんですか!?』
『れれーべーたではありません。エレベーターです。そうですね、そろそろ到着する頃ですよ、それじゃあ後は任せます』
そう言うとソウイチロウさんはまたボクの意識の内側に戻ってしまった。
確かに、ソウイチロウさんの言うように……凄い速度で落下していたはずの小部屋は穏やかな動きになって、最後はゆっくりと止まった。
「と……止まった」
ボク達は全員が動かなくなった小部屋の中で憔悴しきっていた。
すると、そんなボク達をあざ笑うかのような古代語が聞こえてきた。
「ユカ……何か、到着したって聞こえたような気がする……」
「そうねェ、このアナウンスだと……最下層、造船ドック到着……って言っているみたいだねェ」
そして完全に停止した小部屋の扉が開き、ボク達は見たこともないような凄いものを目の当たりにした。
「何……何だこれ?」
「凄い……全てが見たことのないようなモノだ」
「どうやらこれは古代遺跡……みたいだねェ」
見たこともないようなどうやって作ったのかわからない巨大な壁。
透明で見えない壁や天井。
そしてボク達の目の前にあったのは、あの空の上で出くわした巨大戦艦と同じような形の船の残骸だった。
「どうやらこれは古代の造船ドック、あの空飛ぶ船を作っていた工場って言ったところだねェ」
「信じられない……こんな巨大な船が空を飛んだなんて……」
どうやらボク達のいるのは、あの祠の小部屋からずっと下の場所らしい。
ソウイチロウさんの言っていたエレベーターというものは、あの祠の小部屋から真下に降りる階段代わりのものだったというのか。
ここには上を見上げても空が見えないほどの巨大な切り立った崖がある。
ボク達はあのエレベーターという小部屋で信じられないほど地下に降りてきたのだろう。
『だから言ったろう。ここは古代遺跡。オーバーテクノロジーで作られた場所だ。これだけ巨大な場所だと階段で地下に降りるのは大変だろう。だからあの上下を行き来できるエレベーターが作られたというわけだ』
『ソウイチロウさん、疑ってすみませんでした!』
『まあいい、それよりもこの巨大船の残骸を調べた方がいいだろう』
ボク達は巨大船の残骸を調べることにした。
ここにはあの空を飛ぶ巨大戦艦攻略のヒントが何かあるかもしれない。




