57 食事の後は入浴を
商隊の料理担当の人の腕はやはり超一級だった。一気に30人以上の食事を作っていたのだ。その現場の忙しさはさしずめ戦場とも言えた。
「すみません、僕は何を手伝えばよろしいでしょうか?」
「ホーム様! いいえ、貴方様にしていただく事は特にございません、食事が出来るまでどうかお待ちください!!」
「僕はお客様ではありません! もし皆さんが誤解で僕をこき使ったとかの風評被害の恐れを感じているのでしたらそれは大きな間違いです!」
まあ、普通考えて伯爵家の子息に命令する形で何かやらせて問題でもあったら困るのは商隊の方なのは火を見るよりも明らかである。
しかしこのままホームに何もさせなければ彼の中で不満が溜まる一方だろう。
「商隊の皆さん、ボクに考えがあるのですが」
「ユカ様? 一体どうしましたか?」
私は大きな解体前の肉の塊を馬車から用意させた、これをホームに切り分けてもらおうというわけだ。
「ホーム、商隊の皆さんに言って用意してもらった一頭分の牛肉だ。
これを君の剣技でいくつものパーツに切り分けてくれ。商隊の皆さんもご了承済みだよ」
「ユカ様! わかりました!!」
これなら剣技の練習にもなるし、これだけデカい肉を切り分けるのは相当に大変だ。
それなのでこれをホームにやらせる事で本人も満足し、商隊の皆さんの手間も省けるというわけだ。
「レジデンス流剣技! 縦横斬!」
ホームの剣技は四方八方から獲物を狙い撃つものだった。
そして削がれるように牛肉は少しずつ砕かれていき、最後には骨ごと各パーツに切り分けられた。
「ホーム様、これだけの肉があれば全員分に行きわたります! 有難うございます」
商隊の皆さんの役に立てたようでホームは疲れながらも満足した顔をしていた。
◆
「変わってるけど、美味しい……」
「流石だねぇ、これだと場所さえ確保できれば一級の食堂も作れるよ」
「僕の作るのより……遥かに美味しいです、これは見習いたい」
「もう少し上品な味付けが私の好みですわ。でもこれはこれでいいかしら。おかわりくださいます?」
みんなは商隊の料理担当が作ったまかないを美味しそうに食べていた。みんなには言ってないが先程のマンティコアの尻尾の毒がピリッとした隠し味になっている事は黙っておいたほうが良さそうだ……。
「食事の終わった人は順に男女に分かれて温泉で水浴びをしてくださーい」
温泉という言葉に商隊の人はあまりなじみが無いようだったが、水浴びが出来ると聞いて全員喜んでいた。
そして男女比8対2程度の商隊で、男性は順に譲り合うように、女性はゆっくりと時間をかけて旅の疲れを癒した。
「次は……私達の番ですか」
「エリアちゃん? どうしたの?」
「お湯に入るって……火傷しない?」
「大丈夫ですわ! これくらいなら私の城の浴室のお湯より少しぬるいくらいですわ!」
壁の向こう側の声が聞こえる、まあマップメイキングで作っただけの土壁なので見えなければそれでいい程度の物なので特に問題は無い。
私とホームは二人だけ貸し切り状態の男湯に簡易的に作った脱衣場に服を脱いで入った。
「ユカ様、僕達が最後なんですね」
「うん、商隊の人達には準備とかあるから先に入ってもらったんだ」
「僕時々疑問に思うのですが、ユカ様ってまるで父上より年上に感じる時があるんです」
「!」
流石はあのゴーティ伯爵の息子である。
ホームの洞察力はかなり鋭い。
「ま、まあね……父さんがベテランの冒険者のリーダーだったのでそういうノウハウを色々と教えてもらったんだ」
これでどうにか誤魔化せたかもしれない。
そう思っていた時、女湯の方から凄まじい金切声の叫び声が聞こえてきた!!
「「「キャアアアーーー!!!」」」
向こう側にはエリア、マイルさん、ホームの三人しかいない! もし無防備な状態でモンスターが出てきたなら大変な事になる!!
私は脱衣場の横に置いた遺跡の剣を構えた!