578 マジックキャンセラー
大魔女エントラ様が何か魔法を使おうとしている。
「ファイヤーボール!」
これは子供でもできる初歩魔法。
しかし大魔女ともなると、その威力は数十倍にもなる。
だが、その魔法は何故か空中で消滅してしまった。
「なるほどねェ。コレは間違いなくマジックキャンセラーだねェ」
「どれ、えんとらの温い魔力ではないワシの超絶魔力でやってみるわい……雷よここに在れ!」
アンさんが指先に雷を集め、それをエントラ様の魔法の消えた辺りに解き放った。
凄まじい雷が落ちるはず……だった。
「何故じゃ! ワシの超絶ごっどな魔力が、消えたじゃと!?」
「だからムダだって言ってるんだってねェ。このお子様は人の話を聞いていないのかねェ」
数千数万の魔族の大軍と戦える世界最強クラスの魔力の持ち主ですら魔法がかき消される。
マジックキャンセラーという古代の技術の凄さを、ボク達は目の当たりにした。
「これでは向こうの離れ小島に行くことができないねェ。空も飛べないんじゃ」
「うーむ、ワシもお手上げじゃ」
その時、フロアさんが何かの鳥を自分の手に停まらせて命令をしていた。
「ユカさん。魔力でなければ飛んで向こうに行けるはずってことではないでしょうか? それならここの鳥を使えば、向こうに何があるか見ることもできます」
フロアさんは動物使いのスキルで、この辺りにいた鳥をテイムし、様子を探らせてみた。
彼のスキルだと、使役した動物に意識を移し、感覚を共有することも可能だ。
「よし、そのまま真っすぐに飛ぶんだ。よし、見えた! アレは……何かの扉?」
フロアさんは空の離れ小島で何かを見つけることができたようだ。
「……ユカさん、残念ですが俺にはこれ以上何かをすることは出来なそうです。この渓谷は風が強すぎて、あの鳥でも向こう岸まで飛ぶだけで精いっぱい。人を運べそうな他の大きな鳥はこの辺りにはいないようです……」
「フロア、それなら我が矢に弦を巻いて撃ってみよう」
サラサさんが矢の根元に長いロープをつけて離れ小島に向かって撃ってみた。
狙いはピッタリ、矢は離れ小島に向かって飛んだ。
しかし、強い風がその向きを変えてしまい、矢は岩に刺さらず、宙を切ってしまった。
「くッ! やり直しだ!」
その後サラサさんが何度矢を放っても、矢は離れ小島の岩に刺さらなかった。
「魔力で威力強化して撃ってみるかねェ」
「魔女様、頼む」
大魔女エントラ様がサラサさんの身体能力、そして矢の攻撃力を魔法で大幅強化した。
「力がみなぎる! これなら間違いなく撃てる!」
サラサさんは勢いよく矢を放った。
しかし、不思議なことに……サラサさんの放った矢は、空中でいきなり止まり、そのまま地の底に落下していった。
「まさか、マジックキャンセラーがバフ効果まで打ち消すとはねェ……これではお手上げだわねェ」
大魔女エントラ様、アンさん、フロアさん、サラサさん、全員お手上げだ。
……でも、ボクのマップチェンジスキルならどうにかできるかも。
しかし、もしそれがあのマジックキャンセラーと言われる力でかき消されたら足元の地面すら消えてしまうかもしれない。
「ボクの足元を大きな橋にチェンジ!」
「おお、救い主。これ爺様に聞いた橋そのもの」
どうやらボクの踏んでいたのは、大昔に大魔女エントラ様の壊す前の橋の根元だったらしい。
ボクはそれと同じ物を再現することができたので、マップチェンジスキルでどんどん橋の長さを増やしていった。
問題はこの辺りだ。
ボクは橋の中腹辺りで一度立ち止まった。
ここは大魔女エントラ様やアンさんが飛んでいていきなり魔力を失った辺りであり、サラサさんが放った矢がいきなり失速した場所だ。
もしボクのスキルが魔法でかき消されたなら、この先の橋を作ることは出来ない。
それでもボクはマップチェンジスキルを試してみることにした。
「この先の空中を橋にチェンジ!」
!! やった、成功だ。
ボクのスキルはマジックキャンセラーの影響を受けず、作った橋は何分待っても消えることはなかった。




