577 崖の向こうの空の小島
みんなのボクを見る目が冷たい。
心配そうな目で見てくれているのはエリアさんただ一人だけだった。
「イテてて……」
ボクはソウイチロウさんが起動させた金属の馬の暴走の衝撃で全身擦り傷と斬り傷だらけになっている。
レベルの上がっているボクでこれなのだから、普通の人なら命がいくつあっても足りなかったのかもしれない。
「ユカ様……いったいこれは何なのかしら?」
「あーら、ユカ、ずいぶん楽しそうなことしてたみたいねェ」
「愚か者……としか言えんわい」
まあ確かに金属の暴れ馬を好き放題に暴れさせて村をメチャクチャに荒らしまくったらそうも言われるだろうけど……。
『ユカ、すまないっ。後は頼んだ!』
『あ、ソウイチロウさん、それはないよーっ!!』
ボクに身体の主導権を返してくれたソウイチロウさんは意識の内側にまた引っ込んでしまった。
少し無責任じゃないのかな。
それより、この動かなくなった金属馬をどうすればいいのだるうか……。
ボクはとりあえずフワフワ族の人達と仲間全員に謝っておいた。
「ごめんなさいっ!」
ボクが下手に言い訳をせず、謝ったのでフワフワ族の人達は笑って許してくれた。
まあ今までにボクがこの村の人達を助けた分の積み重ねがあったからなのかな。
「大丈夫ですよ、みんなユカ様が悪気があったわけじゃないのは分かってますから」
「そうねェ。どうやらユカでも振り回されるくらい古代の力が凄かったってコトよねェ」
「うむ、まあ暴れ馬を抑えるのは経験がないと厳しいからのう。龍の乗りこなしよりはマシじゃろうが」
何とも言えない。
ボクはあの金属の馬について何も知らないのだから。
「救い主、どうやら金属の馬、大昔の儂らの祖先のモノ。そういえば大昔に爺さまから聞いたことある」
どうやらウルツヤ様はこの金属の馬について何か知っているようだ。
「ウルツヤ様、聞いた話って何ですか?」
「うーむ、儂ら、成人の儀の場の向こう、誰もたどり着けない場所あり、大昔、爺様そこに馬で行けたと聞く」
「ウルツヤ様、そこに連れて行ってもらえますか」
「そこには行けない、そこ見える場所までなら」
ボク達はウルツヤ様に成人の儀の場所の向こうの断崖絶壁に連れて行ってもらった。
そこは切り立った崖しかなく、その向こうに何か小さな島のようになった、鳥でないとたどり着けないような場所が見えた。
「どうやらあの崖の向こうに何かがありそうだねェ。妾が行って何か見て来るかねェ」
「こ、こら。抜け駆けするでないわ、ワシも連れていけ」
アンさんと大魔女エントラ様の二人は空を飛び、空の小島を目指した。
しかし、二人はその後すぐに戻って来てしまった。
「ダメじゃ、いきなり魔力が奪われたわい。空から落ちそうになって慌てて引き返したわ」
「まさかあんな強力なマジックキャンセラーがあるなんて、ここには確実に何かあるねェ」
「お師匠様、マジックキャンセラーって何でしょうか?」
「強力な魔力場消去の特殊法だねェ。これがある場所では一切の魔法が使えなくなるって古代の呪法みたいなものだねェ」
そういえば、古代の遺跡……エイータの神殿に行った際にドラゴンライダーのメートルックさんが、空が飛べなくなる場所があると言っていたが、それがこのマジックキャンセラーだったのかもしれない。
「それではあの空の小島には誰も行くことができないってわけですね。しかし大昔にはあそこに行く橋があったように見えます、この崖の端っこにあるのはどう見ても橋がかかっていた跡みたいですから」
「え……それって、まさか……橋がぶっ潰れてるってことかねェ……」
ホームさんの話を聞いた大魔女エントラ様が表情を引きつらせていた。
「のう、えんとら。何やら心当たりがあるようじゃのう」
「え。ええっとねェ……そういえば百年以上前、邪神竜と大ゲンカして山を吹き飛ばした時に何か壊してしまったかも……しれないねェ」
「何じゃ、結局おぬしが悪いんじゃないか。どうするんじゃ、これではあの島に行けぬぞい」
「悪かったってねェ。何か方法考えるから!」
その後、珍しく大魔女エントラ様が凹んだ様子を見せていた。




