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576 足の無い金属馬

 サラサさんの持って来てくれた物は、どこかの鍵のように見えた。

 しかしこんな鍵の形、ボクは見たことが無い。


『ユカ、私が見た感じ、この鍵は家の鍵や扉の鍵というよりは、何かの乗り物の鍵みたいだな』


 乗り物に鍵?

 ソウイチロウさんの言うことはたまに意味が分からない。


 船にしても馬車にしても扉の中に入るのに鍵はあるかもしれないけど、それそのものを動かすための鍵なんて存在するものなのか?


 ボクはサラサさんの持ってきた変な鍵を見ながら頭を悩ませていた。


『ユカ、族長さんにこの村に何か小さな車か船のような乗り物みたいなものがあるかどうか聞いてみてくれるか?』

『小さな船か車?』


 ソウイチロウさんは何を言っているのだろうか?

 まあ聞いてみるだけなら何も問題無いから聞いてみるか。


「ウルツヤ様、この村には小さな船か車みたいなものってありますか?」

「船? 車 それ一体何?」

「乗り物なんですけど、わかりませんか」

「うむ、大昔のよくわからない物ならある、それ以外わからん」


 そう言ってウルツヤ様は立ち入り禁止の倉庫の奥にボク一人だけを連れて行ってくれた。

 そこにあったのは長い間全く手つかずのモノばかりだった。

 そこにはガラクタにしか見えない土で出来た何かの道具の中に、見覚えもない灰色の物体や、表面が水晶のようになったひび割れた平べったい板などが転がっている。


『凄い! これは間違いなくどれも古代文明の遺産だ! なんだって、この時代に映像媒体やリモコンらしいものがあったというのか……ユカ、少し身体を貸してくれ』

『はい……どうぞ』


 ボクは身体の主導権を少しの間ソウイチロウさんに預けることにした。


「これで色々と調べることができるぞ! とりあえずは、まず使えそうなもの、何に使ったのかといったもののカテゴリー分けだな!」


 ソウイチロウさんは何か独り言を言った後、テキパキとガラクタを次々に種類別に積み上げていった。


「これがリモコンだとして、こっちは映像モニター、しかし主動力は電気ではなさそうだな……魔法を使うのか? いやいや、この時代だから別の動力エネルギーの可能性もある……」


 まるで異界の言葉だ。

 ボクには彼が何を言っているのかまったくわからない。


「あったぞ! コレだ!」


 どうやらソウイチロウさんが目当てのモノを見つけたらしい。

 それは金属で出来た馬のようで、足の存在しない不思議なモノだった。


「これはエアバイクか……多分この起動キーがこれだと考えて、どうだ!」


 なるほど、ソウイチロウさんの言っていた乗り物を動かす鍵とはこれのことだったのか。

 鍵を回すと金属の馬の全身になんだか光の線が走り、激しい鳴き声を上げた。


「ブルルルルルウゥグオォオン!」

「凄い! きちんと起動したっ! まさかエアバイクが使えるなんて想像以上だ!」


 ソウイチロウさんは感動し、そのまま金属の馬を動かした。

 金属の馬は低い嘶きを上げた後、空中に舞い上がった。


「よし、制御方法はバイクと似たようなものか……これなら使える!」


 ソウイチロウさんが金属の馬を従え、その背中に乗ったまま走り出そうとした。


「グルルルウグブォオオオオンン!」

「ななな、なんだ一体どうした!?」


 しかし金属の馬は突然空中できりもみに暴れ出し、壁を突き破って倉庫の外に走り出してしまった。


「ととと止まれッ! 止まってくれぇえええ!!」

「ブルブルブルン……ブルバキューン」


 ソウイチロウさんが普段見ないくらいパニック状態だ。

 焦って周りの見えていない彼は、ボクの言葉も耳に入らず、周りを巻き込みながらどんどん森の木々をなぎ倒してしまっている。


 金属の馬は奇声を放ちながら集落中を駆け回り、そしてだんだん動きが鈍くなっていった。


「ブルン……ブンッ、ン……」


 金属の馬の目の光が消えた。

 そして体に入っていた光の線も全部消え、金属の馬は全く動かなくなった。


「えー、オイ……こんなことでガス欠かよ……動け、何故動かん?」


 ソウイチロウさんが何度も鍵を回そうとした。

 しかしそれでも金属の馬は二度と返事どころかその場から動くことはなかった。

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