56 勝利の後の休息を
ホームの渾身の一撃はマンティコアの首と体とを断ち切った!
マンティコアはおびただしい流血を噴水のように吹き出し……体を数回痙攣させてから倒れた。
そして……生命活動を停止、死んだのだ。
「やった! ユカ様、僕やりました! やりましたよーっ」
「お兄様、素晴らしいですわ!!」
「やったじゃん! ホームくん、キミ今めちゃくちゃカッコいいよ!」
切り飛ばされたマンティコアの首は虚空を眺めている、それは獅子と人の老人を合わせたような頭部だった。
「ユカ、このマンティコア、商人達に解体させるよ」
「わかりました、その前にする事があります」
私はマンティコアの死体の横たわる血と酒と泥水の混ざった水たまりの方を向いた。
「目の前の水たまりを綺麗な泉にチェンジ!!」
私のマップチェンジスキルで目の前にあった汚水のように汚れた水たまりがきれいで透き通るような水に変わった。
マンティコアの死体からの血で水が汚れないように泉の反対側は少し高めの壁に設定しておいた。
スキルがレベルアップしたのだろう、私は複数のマップチェンジが同時に出来るようになっていた。
「どうぞここで汚れた服と体を綺麗にしてください、女性陣の為に壁は高くしておきました!」
「いつもながらユカのスキルは凄いねぇー、あーしは男女一緒でも良かったんだけどねぇー」
「ママママ……マイルさん! 何を言っているのですか?そんなの不潔ですわ! 許せませんわ!」
先程までいい連携で戦っていた二人だったが、戦いが終わった途端に普段の二人の様子に戻っていた。
「ユカ……私にも出来る事を」
エリアは先ほどの戦いで役に立てなかったのを残念がっているようだった。
「エリア、ではみんなに回復をお願いするよ」
「わかりました……癒しの力よ、この周囲にいる正しき者達に再び力を……レザレクション!」
エリアのレザレクションはレベルアップしていた。商隊の人達も含め、この周囲にいた全員の疲れが取れ、元気が戻ったのだ。
「凄い、エリア様の力はまるで聖女様だ!」
「ユカ様、エリア様、マイル様にゴーティ伯爵のご子息とご令嬢、皆素晴らしい方々ばかりだ。
俺達はこの旅に同行できた事を一生の誇りにさせてもらいます!!」
商隊の人達の私達を見る目が既に尊敬から宗教じみてきた……これは早いうちにどうにかしないと!
「よし、ではみんなここで一旦キャンプにしよう。食事の準備を」
「ユカ様、では僕が騎士団特製シチューを……」
「いや、今日は商隊の皆さんにお願いしましょう」
「……了解です」
ホームは不本意そうだったが、人数の事を考えると一人で商隊全員分作ろうとするのは無茶がある。
ここは劇団をやっていた時から全員の食事を担当していた人に任せた方が良いだろう。
だが、ホームに何もさせないのも本人の気が済まないと言ったところだ。
「ホーム、料理作りの手伝いをしてもらえるかな? この人達は旅の最中で大量の料理を作るベテランだ。君の目指す大量の避難民を助けてあげられる料理を作るいい参考になるはずだよ」
「ユカ様! そうです、その通りです。各地を渡り歩いている彼等ならその土地独特の料理が作れる、僕はその技術を教えてもらいます!!」
私は昔から否定から入るやり方が嫌いだった、マイナス査定では伸びる人の可能性を削いでしまう。
それなので今回はホームのみんなの料理をしたいという気持ちを我慢させた分、実際のベテランを手伝う事で今後の経験に出来るようにとの誘導をしてみたのだ。
食事が終わったら商隊全員を含め、男性女性に分かれて私の作った泉を使って順に水浴びをすることになった。
そうなるとこのサイズではどう考えても足りない。私はマップメイカースキルを使い大きな泉を二つ作る事にした。
「目の前の森を温泉にチェンジ!」
私はこの世界でも今の記憶を取り戻す前、家族で温泉に昔行った事があったので一度行った場所としてマップチェンジで作成できたのだ。