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571 大将軍パレス

帝国最強の男が登場です。以前に何度か名前だけは出てきました。

◆◆◆


 ユカ達が必死の猛追劇から逃げきった巨大空中戦艦。

 その中では数多くの兵士達が忙しそうに働いていた。


「急げっ、時間は無いぞ。後一週間以内に帝都に到着するんだ」

「まったく、なんで俺達がお貴族様のためにこの中をキレイに飾らなきゃいけないんだ。俺たちゃ軍人だぞ」

「ボヤくなボヤくな、これも仕事の一つだ」


 そんな中で高級そうな酒瓶を抱えた兵士が歩いている。


「お、お前それ……また大将軍の所に持って行くのか」

「ああ、どうやらまた祝杯をあげるみたいだな」

「まあこれだけの船で村を滅ぼしたんだ、そりゃあ……あの威力に酔いしれたくもなるだろうさ」

「ホント、オレ達がやられる側じゃなくて良かったよなぁ。あの武器、あんなもの喰らったら一瞬でオシマイだぜ」

「キサマら、何をボヤボヤしている! さっさと配置に就かんか!!」


 無駄口を叩いていた兵士は上官に叱られ、そそくさとその場を離れた。

 兵士が上の階層に行くと、そこはまるで宮殿の中のような広い廊下だった。


「失礼します」

「入れ……」


 酒瓶を持った兵士が部屋に入ると、そこはとても豪奢な部屋だった。

 ここは空中戦艦の艦長室。

 その豪奢な椅子に、屈強で最高級の意匠を施された鎧を身に付けた一人の人物が座っていた。


「ご苦労だったな、下がっていいぞ」

「はっ! パレス大将軍、失礼致しましたっ!」


 兵士は酒瓶を机の上に置くと部屋からすぐに立ち去った。


 この部屋にいた人物はパレス大将軍。

 グランド帝国最強の男で、この空中戦艦の司令官でもある。

 彼は酒瓶に何かの液体を入れ、酒をあおった。


「くッ! まだ足りぬのか……」


 兵士達はパレス大将軍は祝杯を挙げていると言っていたが、どうやらそのようには見えない。

 むしろ、何か苦しみながら酒を吞んでいるようだ。


「我は……あとどれだけこれを繰り返せばいいのだ……」


 苦悩する様子の彼の後ろに何者かの気配が感じられた。


「誰だっ!」


 パレス大将軍が剣を投げると、空中で剣が止まった。


「あら、痛いじゃない。大将軍ともあろう方がレディに何してくれるのかしら……キャハハハハッ!」

「貴様は……アビスか」

「あら、折角ご苦労さんと言いに来てあげたのに、つれない態度ね」

「貴様に話す事等……無い……」


 アビスは頭に刺さった剣を引き抜くと、何事も無かったかのようにパレス大将軍のテーブルの上に座った。


「あら、いつもながら変な趣味してるのね……何故お酒に常人ではすぐにでも死ぬような毒薬を入れて飲んでるのかしら? アナタ……マゾ?

「…………」


 パレス大将軍は答えなかった。


「まあいいわ、アナタがアタシちゃんを嫌ってるのはよーく知ってるから。それよりも、予定はきちんと進んでるの? 後一週間で帝都に到着するのよね。そのついでに航路にある生意気な反公爵派貴族の領地を無差別爆撃する命令、忘れてはいないわよね?」

「……」


 パレス大将軍は何一つ言葉を話さず、アビスを鋭い目つきで睨み返すだけだった。


「まあアンタ、不言実行だから計画が狂うことはないと思うけど、きちんと頼んだことはやって頂戴ね。キャハハハハ」


 パレス大将軍は黙ったまま拳を握り震えていた。


「あ、そうそう。アンタの奥さんと息子さん、きちんと元気にしてるわよ……フフフ」

「……そうか……」

「あら、奥さんと息子さんのことには反応するのね、まあいいわ。アンタは命令だけ聞いていれば良いのよ。それじゃあね、また一週間後お会いしましょう」


 アビスはそう言うとその場から姿を消した。


「……我は……悪魔だ、いくら償っても……失われた命は戻ってこない、それなら……せめて苦しむことこそが……我の罰……」


 パレス大将軍はそう言うと毒を入れた酒を飲み干し、苦痛に耐えながら顔を歪めて、己の罪の深さを噛み締めていた。

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