570 破壊の爪痕
あの恐るべき巨大な船は一体何だったのだろうか?
全身が金属で出来た船、というだけでもあり得ないものなのに……あの巨大船は空を飛んでいた。
『ソウイチロウさん、貴方はあの船のことを知っていたのですか?』
『ああ、ああいったモノは大抵、古代の文明で作られた巨大戦艦と相場が決まってるからな。あれは間違いなくこの時代のモノではない太古の昔に作られた巨大空中戦艦だろう』
信じられない。
しかしソウイチロウさんの言っていることは常識の範囲外でも実際に見たような経験談に聞こえる。
実際にソウイチロウさんの世界ではあんな物体が空を飛んだりしていたのだろう。
『ソウイチロウさんは、空を飛ぶ鉄の船なんてものが存在するって信じられますか?』
『信じるも何も、私は実際にそれで良く海外のゲームイベントとかのために使っていたけどな』
この人のいた世界って、一体どんな場所なのだろうか??
空飛ぶ船があるだけでなく、実際に乗っていた人がいるということ自体が信じられない。
しかし空飛ぶ船があるのはボク達が先程実際に経験したことなので、とてもウソや出まかせとは思えなかった。
アンさんは巨大船の追撃を振り切り、ボク達は優雅な空の散歩を楽しませてもらっていた。
「雲一つない空、のどかよねェ」
ボク達が空を飛べているのはドラゴンの神であるアンさんのおかげなのだ。
「えんとら、どうもそうも言ってられんようじゃ。下を見てみよ」
「下? 下に何があるってのかねェ?」
アンさんは空から見下ろした下の方に何かがあるのを見つけたらしい。
ボク達はアンさんの言うように下を見下ろしてみた。
すると……そこには凄惨な光景が広がっていた。
「な、何だ……アレは?」
「酷い……酷すぎますわ」
「……許せません。多くの魂が泣いています……」
「ひでぇ、これが人間のやることなのか!?」
ボク達が見たのは、地面に大小無数に開けられた穴と焼き尽くされた村落の成れの果てだった。
あの様子では生き残っている人は誰もいないだろう……。
村落の大半は空の上から落とされた巨大な何かで押しつぶされたような穴になっていた。
これほどの上空から見えるほどの穴だ、実際にはもっと大きな穴なのだろう。
「お師匠様……あれは!」
「そうねェ、妾の魔法、メテオフォールで開けた穴に似ているけど、あそこからは魔力の残滓は感じないねェ。まるで、上空から超高熱の大きな柱か玉を落としたような感じに見えるねェ」
流石は世界一の大魔女。
彼女はあの状況を冷静に判断し、あれが魔法によるものではないと見抜いているのだ。
「それでは……アレは一体」
「そうねェ……考えられるとしたら、先程のあの巨大な船……かねェ」
あの巨大な船からの攻撃ならアレだけの惨劇になっても確かにおかしくはない。
しかし、何のためにあんな何もなさそうな村を??
「ここは……場所的にはモンターナ侯爵様の領地だったはず。父上に連れて来てもらった覚えがあります。そう、あの山と湖は間違いありません!」
「モンターナ侯爵? 誰ですかそれ」
「モンターナ侯爵様は、帝国の環境大臣で、父上と同じ反公爵派の貴族様です……」
反公爵派といえば、ホームさんの父親と同じ腐敗権力に反対する良識派貴族ということになる。
その反公爵派の村が先程の巨大船に焼かれたとなると……あの船は公爵派貴族の持ち物ということになるのかっ!!
「お兄様、私それで話が見えましたわっ! つまりあの巨大な船は公爵派貴族達のモノで、自分達に逆らうモンターナ侯爵様への見せしめとして村を焼き払ったのですわ……許せません……」
「ルーム、気持ちは分かるよ。でも、今はどうすることもできない……せめてあの船を壊すことができれば……」
ホームさんが拳を握って震えている。
怒りを抑えるのに必死なのだろう。
「ふむ、どうもゆっくりしておる時間は無さそうじゃのう。急いでふわふわ族の集落に向かうぞ」
「そうだねェ。そこなら何か分かるかもしれないねェ」
アンさんと大魔女エントラ様は何か掴んだような様子で、二人で話をしていた。




