568 雲海の中の巨大なモノ
◆◇◆
魔族の襲撃を退けたボク達は村の周囲を見渡した。
「やはり生き残りは一人もいないみたいだね」
「こちらもダメですわ、何もありません」
どうやらこの村には生き残った人間は一人もいないようだ。
あのアナとかいうダークリッチ一人に滅ぼされて、村人は全員ゾンビにされてしまったらしい。
「酷い……」
エリアさんが静かに怒っている。
彼女は辺りに手をかざし、光のエネルギーを手から放った。
「この地で命を失った全ての者達に安らぎを……レザレクションッ」
エリアさんの力は創世神の力。
彼女のレザレクションは大きな光となってこの村全体を覆い、報われぬ魂は空に消えていった。
「……何もなくなってしまいましたね」
「そうねェ。どうやらこの周囲の村は全滅だろうねェ……。これ以上アビスを好きにさせない方が良いんだろうけど、それも難しいねェ……今後も犠牲者が出ることは覚悟の上で動かないと」
大魔女エントラ様も頭を抱えている。
どうやら大賢者と言われる程の彼女でも、魔将軍アビスによる着実な闇の浸食はくい止める方法が思いつかないらしい。
「おぬしが泣き言を言うとは珍しいのう。じゃがワシも同感じゃ。あの毒婦……ますます悪辣になりおったわ」
どうやらドラゴンの神と呼ばれるようなアンさんでも魔将軍アビスを止める方法が思いつかないらしい。
「ユカさん、とにかく一旦ここを離れませんか。どうもここは嫌な予感がします。ここからなら山を越えればすぐなので一度フワフワ族の集落に向かいましょう」
「フロア、我……一度、村、戻る」
フロアさんとサラサさんはここからなら近いからと一度フワフワ族の集落に行くことを提案している。
確かに今ここにいても何の進展もなさそうだ。
「そうだね。それじゃあ一度フワフワ族の集落に向かおう。アンさん、みんなを背中に乗せてもらえますか?」
「やれやれ、龍使いの荒い奴らじゃのう……まあよい、ワシの背に乗るがよいわ」
ボク達は紫の巨大なドラゴンになったアンさんの背中に乗せてもらい、廃墟になった村を後にした。
「さて、直線距離で行きたい所じゃが……気流の問題とかがあるので少し迂回させてもらうぞ」
アンさんは山の側面を回るルートでフワフワ族の村を目指した。
しかし、その時……巨大な雲海に突入し、ボク達は前方がまるで何も見えなくなってしまった。
「な……なんじゃアレは!?」
空を飛んでいるドラゴンの姿をしたアンさんがいきなり大きな声で叫んだ。
「何って……こんな空の上に何があるって……! 何だあれ!?」
「空の上に……島?」
「いや、あれは巨大なドラゴンのようにも見える」
「あんなもの……妾でも見たのは初めてだねェ。まるで空に浮かぶ巨大な城みたいだねェ」
全員の意見が違う。
しかし共通しているのは、全員が見ているのは同じモノで……それはとてつもなく巨大な物体だということだ。
『まさか……この世界に空中戦艦だと!?』
『ソウイチロウさん、貴方ならアレの正体が何かわかるのですか?』
『ああ、私の憶測の域は超えないが……あれは空中戦艦、もしくは空中要塞とでも言うべき物だろう』
『それじゃあみんなにそれを伝えないと!』
『いや、今は下手に話さない方がいい。あれはこの世界では常識の範囲外のものだ。下手に話せば混乱を招くだけだ……』
どうやらソウイチロウさんだけはあの空中の巨大な物体の正体に気付いているらしい。
しかしボク達が雲海の中で見た巨大なモノはその後何事も無かったかのように姿を消した。
「一体あれは何だったのだ?」
「俺もわかりません、しかし鳥たちが空に巨大な島が浮かんでいて雷や火を吐いて来るって怖がっているのは聞きました」
フロアさんが言うに、鳥たちもあの巨大なモノに怯えているらしい。
しかし今はあの巨大なモノが何かを考えるより、ボク達は早くフワフワ族の集落を目指した方が良さそうだ。




