566 今の生活は最高!
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「そこ、スープを飲む時は音を立てない! そちらは手づかみで食事をしないっ! そしてそっちは皿をベロベロ舐めない!!」
そんなこと言われたってアタシらそんなお貴族様のマナーなんて知るわけないじゃん!
成り行きでここにいる形だってのに。
まあ、アナとあの生意気なトゥルゥーは今ここにある料理を食べるのがあまり美味しく感じていないみたいだけど、アタシは今までに食べたことのないような美味しいものだと思うけどねー。
確かにアタシって今バンパイアリーダーだのバンパイアロードだのと言われる上位吸血鬼になったので、そりゃ一番のご馳走は可愛い男の子の血だけど、牛もブタも出されたものは美味しく食べれるからまあいいじゃない。
流石に虫やトカゲやネズミみたいなものは人間の娘だった時に村全体の凶作の時に食べたっきりもう食べたいとは思わないけど……。
アナは言っても貴族まではいかなくても村長のお嬢様だからそんな変なモノ食べたことないんでしょ。
それにあのトゥルゥーなんてあの子のいた村での家畜の飼育係で肉を食べたくても食べられないなんて経験したことないからあんなに贅沢三昧な文句が言えるのよ。
お前らには肉や血への感謝が足りないのよ。
せめて出された食事くらい美味しそうにいただくのがマナーなんだから。
……しかしアタシも変な人生歩んでるわね。
普通に村娘として生きて、村の誰かいい男と結婚して平凡な人生を歩むはずだったのに、いきなり親友だと思ってたアナに殺された挙句、ゾンビにされて村をムチャクチャに食い荒らし、その後はアビスお姉様に闇の貴族であるバンパイアロードにしてもらえるなんて。
喜んでいいのか、悲しんでいいのかわからない人生になってしまった。
まあ今のこの魔族としてのバンパイアロードの生活、人間として生きていれば一生お目にかかれないような相手に会えるかも知れないから、この中で一番あの仮面のローサって貴族の娘のマナーレッスンを真面目に聞いてるのはアタシくらいだろうね。
だってさ、ただの村娘だったアタシが、まさかの貴族様のパーティーに行く事ができるのよ、そりゃあ努力もするわよ。
それに、相手が気に入らないような奴だったらバンパイアロードとしてのスキル、魔眼で奴隷にしてしまえばいいし、可愛い男の子なら血を吸ってアタシの言いなりにしてしまえばいい。
そんな好き放題に生きれる今の人生って最高じゃない!
でもあのユカってヤツらとはもう二度と会いたくないわ。
ユカもあの貴族っぽい男の子も見た目可愛いからアタシが血を吸って言いなりにしてあげたかったのに、何なのよあの強さ!
あんなの人間じゃないわよ、バケモノよ、バケモノ。
まあそんなこと言ってもアイツらがいなくなるわけじゃないので、それならアビスお姉様の言うように貴族のマナーを身に付けて帝国貴族を骨抜きにしてアタシ達の下僕にしてしまおうという作戦、コレを使ってあのユカ達を血祭りにあげるのよ。
アビスお姉様のおかげでバンパイアロードになったアタシはとても美しく、そして強くなれた。
これはたぶん日々お姉様が血浴みさせてくれているからでしょうね、おかげで肌はツヤツヤのすべすべよ。
美しさは他者の不幸の上に成り立つとアビスお姉様が言っていたけど、まあ貴族が美しいのが下民の苦しみの上に成り立ってるって、闇の貴族になれた今ならとても実感できるわ。
さあ、早く貴族のマナーを身に付けて社交界にデビュタントしたいわ。
アタシの魅力で貴族の可愛い男の子の血を全部吸ってあげるの。
ああ、人間をやめることができてアタシって……最高に幸せだわ!
それに、没落したとはいえ貴族の娘をアタシがアゴで召使いにできるのよ。
こんなの人間だった時なら絶対に考えられないわ。
「ローサ、アタシのナイフが落ちたわ。すぐ別のナイフを用意しなさい」
「承知致しました……ブーコ様……」
ああ、やっぱり今の生活が最っ高。




