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565 アビスのペット

◆◆◆


 ワタクシは、契約を交わした大悪魔アビス様のペットになった。

 アビス様はワタクシに魔族にならないかと誘ってくれたのですが、ワタクシ……どうしてもそれだけは受け入れられなかった。


 そのことで怒られるのかと思ったが、アビス様はそれでもいいと認めてくれた。

 その代わり、ワタクシはアビス様の従者のような立場で、メイドのような仕事をすることになった。


 貴族の娘がメイドになるのは別に恥でも何でもない。

 現に帝国貴族でも公爵や皇帝陛下に仕えるメイドは一般の下民ではなく、ワタクシのような子爵家や男爵家、または伯爵家等の次女以降になる。


 いずれは位の高い公爵派貴族と婚約するか、さもなくば帝国のメイドになるかのどちらかの道はワタクシの歩むはずだった道。

 しかしお母様譲りのこの美貌、それはあのホーム・レジデンスのせいで二目と見れない姿にされてしまった。

 治癒魔法のおかげでもう痛みは感じないが、人間の魔法では所詮これ以上の改善はできない。


 アビス様はワタクシのこの姿を元通りに戻してくれると言っているが、それはあくまでも復讐を終わらせてからにしたい。

 あの……忌まわしいユカ達を全員皆殺しにしてからようやく元の美貌に戻してもらいたいことをワタクシはアビス様にお伝えした。


「フフフフ、良いわよ。アナタのそのどす黒い感情、もっとアタシちゃんに味わわせて頂戴ね。可愛いペットちゃん」


 本来ならペット扱いされることなんて屈辱でしかないはずなのに、ワタクシはアビス様の愛玩動物にされて安心感と幸福感を感じている。

 これは間違いなくアビス様がワタクシよりもよほど美しく、そして強いからなのかと感じた。


「ローサちゃん。それで、ユカってのは一体何者なのかしら?」

「ユカは……秩序の破壊者です。ワタクシ達の常識を破壊し、家畜(ブタ)を人間にしようとする忌まわしきヤツら。あんなヤツらがのさばったら、ワタクシ達の世界はメチャクチャにされてしまいます!」

「そう、まあ世界がメチャクチャになるのはアタシちゃん大好きだけど、やり方が気に入らないわね。良いわ、アタシちゃんがそのナマイキなユカってのを惨たらしく殺してあげるから。キャハハハハッ!」


 なんと頼もしい。

 アビス様ならあのユカもホームも皆殺しにしてくれる。

 ワタクシはそう思っていた。


「ローサちゃん。アタシちゃんが戻ってくるまで、この城をキレイに掃除しておくのよ。部下の魔物はアンタに従わせておくから襲われることは無いからね」

「はい、アビス様。ありがとうございます」

「さてと、それじゃあヒロちゃんの所に行ってそのユカってのと遊んであげようかしらね」


 アビス様はそう言い残すと城を後にした。


 その後ワタクシがボロボロになったアビスお姉様を見たのはその数か月後だった。


「アビス様! おいたわしい。一体どうしてそのようなお姿に!?」

「ユカ……絶対に許さない。アタシちゃんをここまで追い詰めるなんて……絶対に、絶対に次こそ殺してあげるわッ!」


 あの絶対的に強いアビス様ですらこのザマなんて、ユカってのは一体何者なの!? まさか伝説の破壊神だとでも言うの?


「アビス様、今はとにかく傷の手当てを……」

「それは良いから、すぐにでも血浴みの準備をしなさい!」


 ワタクシは配下の魔物達に言いつけ、アビス様の血浴みの準備をさせた。

 血浴みを終えたアビス様は、少し力を取り戻してからワタクシにこう告げた。


「あのユカとその仲間達を殺すには正攻法じゃダメみたいね。アタシちゃんはやることがあるから少しこの城で待っていなさい。その後の指示は戻って来てからするわ」

「承知致しました。アビス様」


 そしてアビス様は周囲の村から眷属にした娘を連れてきた。

 それが今ここにいるアナ、ブーコ、トゥルゥーの三人だ。

 はっきり言って貴族であるワタクシから見て、田舎臭い下民の娘でしかない。


 こんな奴らに頭を下げるなんて……屈辱だ。

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