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564 アビスの手の上

この話の時系列はユカ達が自由都市リバテアに着く少し前です。

◆◆◆


 フフフフ、馬鹿な子……。

 アタシちゃんの手の上で踊らされているとも知らずに、簡単に魂をよこすなんて言っちゃって。


 ユカってのが何者かは知らないけど、今は利用させてもらうわ。

 貴族と庶民を争わせる、そのことでより多くの憎しみや悲しみを手に入れられるの。


 この町も簡単につぶす事ができそうね。

 パティオ子爵に人間狩りの面白さを教えたら途端にあの真面目な剣士が堕落した。

 帝国の社交界のパーティーでまだ若いパティオ子爵に人間の貴族令嬢のフリをして狐狩りをしていた彼を少し焚きつけたら途端にあのザマよ。


 今や快楽のためだけに人間を狩るいい殺人鬼になってくれたわ。

 おかげで名領主と呼ばれた彼の名声は地の底に落ち、今やこの領地の人間達は全員がパティオ子爵を憎んでいる。


 そして庶民の怒りが限界に達したところで貴族に反乱するように焚きつけようと思っていたけど、あのパティオ子爵が見るも無残な姿で逃げ帰ってきた。

 このタイミングだと思ったアタシちゃんは旅の占い師のフリをして今度は庶民を焚きつけてあげたのよ。

 そのためには貴族、ヘクタール男爵を倒したっていうユカの名前を使うのが、一番効果がありそうね。


「あなた方が苦しむのはもう終わる時が来ます。遠方では悪徳貴族と言われたヘクタール男爵がユカという人物に討たれたと聞きます。そう、あなた達も怒りをぶつける時、あの悪逆非道のパティオ子爵を討つ時がやってきたのです!」


 少し信ぴょう性のある占い師のフリをして煽っただけで、愚かな人間達は群れを成してパティオ子爵の城に押し寄せた。

 まあ、アタシちゃんが占いを聞いた連中を狂戦士化するように少しだけ魔法で力を貸してあげたんだけどね。

 おかげで武器を持っているはずのパティオ子爵の私兵は生身のはずの庶民にねじり殺されたみたい。


 ああ、この憎悪と悲しみと恐怖の感情。最高のご馳走だわ。


 その中でも一際強い憎しみを感じる。

 アタシちゃんはその憎しみの強い場所に行ってみた。

 すると、そこにいたのは醜く焼けただれた顔と身体の少女がベッドにすがり付いていた。


 どうやら強い憎しみで悪魔に魂を売ろうというのね。

 その願い、叶えてあげようかしら。


 アタシちゃんは強い憎しみを抱えていた少女、ローサの話を聞いてあげた。

 どうやら喜んで魂をささげると言っているみたいね、神に対する呪いの強さ……とても心地良いわ。


「契約成立ね。それじゃあ見てなさい、貴女が望んだ通りにしてあげるわ」


 アタシちゃんはローサの部屋を離れ、暴動を起こしている連中の中心に降り立った。


「誰だ! お前は……その翼、悪魔か!!」

「フフフフ、皆様、御機嫌よう。よくアタシちゃんの思い通りに動いてくれたわね、お礼を言いますわ。キャハハハハハ!」

「何だと!? お前は誰なんだ!!」

「あら、皆様にはこの姿の方が見覚えあるかしらね」

「!?? 何故!? あ、あなたは……」


 アタシちゃんは暴徒のリーダーの前でわざと占い師の姿に変化した。


「ご苦労様、もうアンタ達用無いから……死んで頂戴」

「な……なんだとぉブハァ!」


 アタシちゃんは小さな魔法の玉で暴徒のリーダーを爆散させた。


「「「「‼‼‼」」」


 リーダーを爆死された暴徒の群れはその場で立ちすくんだ。


「良いわ良いわ、その驚愕の表情……煽った甲斐があったってものよ」

「あ……悪魔め!」

「あら、悪魔なんてアタシちゃんはそんな名前じゃないわよ、アタシちゃんの名前はアビス。そうね、アンタ達人間にとっては魔将軍アビスって名前のほうが有名かしら……」

「「「魔将軍!」」」


 暴徒の人間達がその場で動けなくなってしまった。

 どうやらこんな辺境の地でも魔将軍の恐ろしさは伝わっているようね。


「さあ、自己紹介も終わったから、そろそろ全員死んで頂きますわ。キャハハハハッ!」


 その後は退屈な作業だったわ。

 アタシちゃんの力のほんの一部を使っただけでここにいた千人以上の人間が一瞬で消え去ったの。


 さて、あの子にもう終わったって教えてあげようかしら。

 その前に……あの子以外の貴族側の生き残りも全員殺しておきましょう。

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