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563 女悪魔との契約

◆◆◆


 城に火が迫る、ワタクシはなぜこのようなことになったのか……考えていた。


 全て、そう……お父様と一緒にあの田舎貴族のヘクタールの収穫祭に行った時から何もかもがおかしくなってしまった。


 ユカとその仲間達……あの忌まわしい連中はワタクシ達貴族に逆らい、祝福の時の定めを穢した家畜(ブタ)の子を助けた。

 それだけならまだしも、ワタクシが運命の相手と決めたはずのホームはよりにもよってワタクシを守るどころか、熱い鉄板の上に転ばせ、ワタクシを二目と見られない姿にしてしまった。


 怒ったお父様が自慢の剣技でユカ達を退治してくれるはずだったのに、そのお父様は自慢の腕を切り落とされ、もう剣士としては生きていけなくされてしまった。


 ワタクシはあの熱い鉄板で顔と身体の前面、腕を焼かれて……もう二度と表には出られなくなってしまい、今や部屋に閉じこもったまま毎日泣いて過ごしている。


 そしてお母様はお父様が腕を斬られたことと、ワタクシがもう社交界どころか二度と表に出られない姿になってしまったことがショックすぎて、完全に狂ってしまい……もう二度と元には戻らない。


 ワタクシ達はどうにかヘクタールの屋敷を抜け出し、お父様達と領に戻ってきたのだが、その後あの領民の家畜(ブタ)どもはお父様に従わなくなった。

 そしてよりにもよって……町に現れた美しい女占い師とやらがユカのことを褒め称え、ユカとその仲間達のヘクタール男爵を倒したという話を風潮していた。


 神様、どうしてこのようなひどい仕打ちをするのですか!?

 ワタクシ達は神の子である貴族として立派に振舞ってきたはず、神の敬虔な信徒であるワタクシがなぜ……このような苦しみを受けなくてはいけないのですか。


 もう神なんて信じられない。

 あの家畜(ブタ)どもは次々とお父様の城に汚らしい足で踏み込み、お父様自慢の美しい中庭のバラ園を燃やし尽くした。


「人間狩りのパティオはどこだ!」

「おれの妻の仇だ! 出てこいっ!」

「とうちゃんを…かあちゃんをかえせー! このあくまー!」


 暴徒は数百人、いや下手すれば千人以上に増え、次々と城の中で虐殺と略奪が始まった。

 お父様が腕を失わなければ、あんな家畜(ブタ)どもを調子に乗らせる事なんて無かったのに!


「いたぞ! パティオの妻だ!」

「殺せ! なぶり殺しにしてしまえ!」

「パティオに思い知らせてやる!」

「ヒヒハハハハハハハアハ。……アハハハハ。ハハハ、キャーッハッハッハ」


 騒がしい中でけたたましいお母様の声が聞こえる。

 しかしその声もすぐに消えてしまった。

 もうお母様は神の国に召されてしまったのだろう。


 ワタクシももう長くないのかもしれない……。

 しかしあんな家畜(ブタ)どもに殺されたり、アイツらの言いなりにさせられるなんて死んでも嫌。


 それならいっそワタクシ自ら舌を噛んでも……イヤ、やはり痛いのと怖いのは嫌。

 それもこれも……全てあのユカとその仲間がいけないんだ!

 アイツらさえ! アイツらさえいなければっいつもの幸せな毎日が送れたというのに……。


 呪ってやる……悪魔に魂を売ってもユカ達を地獄に落としてやる……。


「フフフフフ……良い絶望と憎しみね」

「な……誰よアンタ!? 出ていきなさいよっ」

「あらあら、折角アタシちゃんが助けてあげようとしたのに、いらないの? ユカ達に仕返ししたいのでしょう……」


 ユカの名前を知っている……コイツは一体誰!


「アンタ、誰なのよ」

「フフフフ……申し遅れたわね。アタシちゃんはアビス……アンタの願った悪魔よ」

「悪魔だって!? それじゃあワタクシの願いを聞いてよ、外にいる家畜(ブタ)ども全員殺してよ!!!」

「キャハハハハ! そんな簡単なことでいいの? アンタ魂賭ける?」


 アビスと名乗った女悪魔はアレだけ大量の家畜(ブタ)どもを全員殺すのが簡単だと言っている。

 もしそれが本当なら……あのユカとその仲間も殺してくれるかもしれない。


「ええ、魂くらいいくらでもあげますわ。ワタクシ達に酷い仕打ちをした神なんかより、貴女を信じます!」

「契約成立ね。それじゃあ見てなさい、貴女が望んだ通りにしてあげるわ」


 アビスと名乗った女悪魔はそう言うと一瞬で部屋から姿を消した。

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