562 仮面の少女
第二章以来 登場したキャラです。誰? と思う人は第二章を読んでみてください。
ローサのアビスへの呼び方をストーリーの流れ上、ご主人様からアビス様に変更しました。
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アビスお姉様の考えてることとは一体何なのだろうか。
まああのクソむかつくユカ達とはもう二度と会いたくない。
まさか、いい方法があるからもう一度ユカ達と戦ってこいということは無いだろう。
いくらお姉様がドSだとしてもそれはちょっと嫌だ。
「お姉様、いい考えってのは何のことでしょうか?」
「フフフ、まあ今日はゆっくり休んで体力を回復させなさい、全員ボロボロでしょう」
お姉様はやはり優しい。
アレだけ無様にボロ負けしたあたし達をねぎらってゆっくり休んで良いと言ってくれている。
「そうね、ゆっくり血浴みした後、極上の料理を頂きましょう。お話はその後よ」
やった、血浴みができる。
これで疲れた体を休めることができれば、あたしの力は元通りになるのよ。
あたし達はアビスお姉様に言われ、血浴みを済ませ、食堂に集まった。
そこに並べられていたのは血も滴るようなレアの肉だった。
「さあ、冷めないうちに召し上がりなさいな」
「あの……お姉様? 何で牛肉や豚肉なんですか? 人間なら美味しそうなのが大量に牢屋にいるはずなんですが……」
何でなの? お姉様がわざわざ牛肉や豚肉の料理を用意させてあたし達に振舞った。
はっきり言って人間に比べたら味が相当劣るものを食べさせようって、お姉様やっぱり怒っていて嫌がらせされているの??
「フフフ、お馬鹿さん。アタシちゃんが意味のないことをやるわけないじゃないのよ。アナタ達には最高のテーブルマナーを身に付けて貴族に相応しい振る舞いを覚えてもらわないとね。今後の計画のためにはアナタ達はただの泥臭い田舎娘でいてもらうと困るのよ」
なんかトゲのある言い方だった。
確かにあたしもアナお姉様もブーコも人間の貴族のマナーなんて欠片も知らない。
そんな状態で社交界に出ればアビスお姉様が恥をかくというわけか。
「攫ってきた人間の中に良い子がいたからね。その子がマナーの講師になってくれるみたいなのよ。その子もユカ達には恨みを持ってるみたいだから。魔族にはなりたくないっていってアタシちゃんのことは拒絶したけど許してあげたわ」
そう言ってお姉様は顔にマスクをつけた少女を連れてきた。
「さあ、挨拶なさい。アタシちゃんの妹達よ」
「はい……アビス様。ワタクシはローサと申します」
長い手袋をつけ、マスクをかぶった少女は小さな声でカーテシーを披露し、自己紹介をした。
「この子は暴動を起こした人間達に襲われそうになっていたのでアタシちゃんが助けてあげたのよ。ユカ達に対する深い憎しみを感じたからね、その後は傷を治してあげるって言ったのに……アイツらへの恨みを忘れないためだって言って傷痕はそのままにしてほしいって言ってるの」
確かにこの娘からは人間とは思えないほど深い憎悪の感情を感じて心地いい。
「そこに置いた食事は人間達にとっては最高級のモノ、つまりアナタ達はそのローサちゃんのレッスンを受けて貴族の娘に相応しいマナーを短期間で身に付けてほしいのよ」
「はい、お姉様」
つまり、アビスお姉様がわざわざ人間のための食事を用意したのは、あたし達に人間の貴族と食事をさせるような機会があるから……そのための貴族のマナーを身につけろということなのか。
「当然……嫌とは言わないわよね? ユカ達と戦うことに比べればよほど楽なことだと思うわよ。キャハハハハハ」
確かに、あの人間離れしたユカ達と戦うことを考えれば、たかだか人間の貴族のマナーを身に付けるなんて痛みも何も感じない楽なことだ。
不満があるとするなら、人間ごときに頭を下げてレッスンを受けないといけない屈辱くらいか。
「さあ、一週間でマナーを身に付けるのよ。公爵達のパーティーは二週間後なんだから」
まずは目の前の食事をマナー良く食べること、どうやらこれが今、あたしがするべきことのようだ。




