561 アビスと姉妹達
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何なのよアイツ……。
あたしの身体が動かないなんて……まさか、あいつにあたしが恐怖しているというの!?
「魔道に堕ちた程度の小娘が……年季の違いというものを教えてやるわい」
「な、何なのよ何なのよ……クソガキ、なんでこんなにあたしの体が震えているの!?」
何なのよ……アイツがあたしよりも強いって言うの?
でも、あたしの身体は恐怖で動けない、そんな……なんであんな小さなクソガキがあたしよりも強いのよ……。
「さあ、覚悟は良いか……小娘」
「いや、もうイヤーッ! あたし帰るっ。こんな所二度と来るもんかっ!!」
無様だけど死ぬよりはマシ。
でもあのユカってヤツとその仲間……絶対に許さないんだから!
今は逃げるんじゃないの、用事があるからお姉様にユカ達のことを報告するのが妹としての義務なの。
「バイバイッ! お姉様に言ってお前ら全員ぶっ殺してもらうんだから。さよならっ」
あたしはロック鳥に乗ってその場から姿を消した。
あーあ、これ間違いなくアビスお姉様に怒られてしまう……。
でも、ユカ達と戦うよりはよっぽどマシだわ。
あたしはロック鳥を使ってお姉様のお城に戻った。
城に戻ったあたしが目にしたのは全身ボロボロになったアナお姉様とブーコだった。
その前にはアビスお姉様が玉座に座っている。
「あら、お帰りなさい。トゥルゥー」
「アビスお姉様、申し訳ありません」
あたしは開口一番すぐに謝った。
アビスお姉様は見るからに不機嫌そうな顔だったからだ。
「何を謝ることがあるのかしら? アナタ達はきちんとやることをやってきたのでしょう」
「お姉様……」
この言い方ということは、不機嫌ではあっても怒ってはいないようだ。
アビスお姉様が怒っている時はあたし達をアンタ呼ばわりするのが大半だから。
「アナタ達はアタシちゃんの言いつけ通り村々を滅ぼしてきたのでしょう、あの忌々しいユカとその仲間が現れたのはただの誤算よ」
アビスお姉様はユカの名前をいう時、とても苦々しい顔をしていた。
「お姉様、あのユカって何者なんですか?」
アビスお姉様がユカの名前を聞いて一瞬沈黙した。コレは聞いてはいけないことを聞いてしまったのかも……。
「ユカ……アイツは、魔族の敵よ。普通の人間だと思ったらダメ」
「え? でもたかだか人間程度、アビスお姉様の敵じゃないでしょ」
「ユカとその仲間を甘く見ちゃダメよ。アイツら……すでに魔将軍を二人倒しているのよ」
「!!!??」
魔将軍! あたしが人間だった時ですら小さな村でも恐れられた名前の大悪魔だ。
しかしユカとその仲間はなんとその魔将軍を二人倒したというらしい。
「マデンもパンデモニウムもユカとその仲間に負けたのよ。それに、あのユカは数万の魔族の大軍を一人で倒したのよ!」
そんな……ユカなんてあの子供みたいな見た目だから他のヤツらのおまけだと思ったのに……アイツがそんなにヤバい相手だったなんて!
「だからアタシちゃんはそんなユカ達と出くわしても無事帰ってきたアナタ達を怒る気はないわよ。むしろよく帰って来てくれたと褒めてあげるわ」
「あまり無事じゃないけどねー。アタシなんてあのガキの聖剣で死にかけたんだからー」
「わたしもあの魔法使い、絶対に許さない……。次は絶対に殺してやるわ」
アナお姉様もブーコも全身ズタボロになりながらユカの仲間達の愚痴を言っている。
「とはいっても、もっとアタシちゃん達が力を手に入れないと、あのユカ達をぶっ殺すのは難しいわ。だからアタシちゃんもっといい方法を考えているの」
「アビスお姉様、流石です。もう方法は考えていたのですね、素敵です」
あたしの方を見て怪しく笑ったアビスお姉様は舌なめずりをしながら指さしてきた。
「さあ、アナタ達。少しゆっくり休んで回復したら……次の計画を実行するわよ」
「「「はい、お姉様」」」
どうやらアビスお姉様は何か考えていることがあるらしい。




