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556 年季の違い

 一旦仕切り直しだ。

 だがこの仕切り直し、ボク達に有利になっているのは間違いない。

 力強い味方が増えたからだ。


「のう、小娘よ……おぬし、自分に自信があると思っているようじゃのう」

「黙れクソガキ! 何よ偉そうな態度で」


 トゥルゥーは先程の上空に現れた巨大なドラゴンと、目の前にいるアンさんが同じ人だとは気が付いていないようだ。


「愚かというか哀れじゃのう……この小娘、よほど今まで恵まれていないと思い込んでおったようじゃ」

「お前に何がわかるってのよ、クソガキ! 死になさいよ!!」


 トゥルゥーが髪の毛の鞭を束ねてアンさんに振り下ろした。

 しかしアンさんはその髪の毛鞭を片手で全て受け止めて握った。


「遅すぎて欠伸が出るわい……」

「なっ!? 何であたしのヘアーウィップに触れて何も起きないの!??」

「相手の力量も量れぬ未熟者が……オシオキが足りんようじゃのう!」


 アンさんは握った髪の毛の鞭の束に強烈な電撃を奔らせた。


「ギャアアアアアムッ!」

「先程の雷で懲りんかったのか」

「アンタ……一体誰なのよ!」

「ワシか……キサマのような下衆に名乗る名前は持ち合わせておらぬわ。確か……おぬしの仲間がそう言っておったのう」


 どうやらアンさんはボク達がダークリッチやバンパイアロードと戦っていた時から様子を見ていたらしい。

 その時に加勢しなかったのはボク達だけでも問題が無いと見ていたからだろう。


「ふざけるな! 下等な人間ふぜいが!」


 ブチ切れたトゥルゥーは何体ものドラゴンを召喚した。


「最強の生物ドラゴン、あたしの力はそのドラゴンですら下僕(ともだち)にできるのよ! さあ、ドラゴンの群れにボロボロにされなさいよっ」

「はぁ……身の程知らずとは何とも情けないものよのう……えんとら、手を出すでないぞ、このトカゲどもはワシが片付けるからのう」

「わかってるからねェ。まあ周りが吹き飛ばない程度に手加減することねェ」

「わかっておるわい。この程度のトカゲ、ワシの相手にもならんわ」


 トゥルゥーはレッサードラゴンやワイバーンを大量に呼び出し、アンさんに飛び掛からせた。


「人間程度がナマイキなのよっ! 最強のドラゴンにズタボロにされて死んでしまいなさいっ」


 アンさんに大量のドラゴンが襲い掛かる、多数のドラゴン種によって囲まれたことによりアンさんの姿が見えなくなってしまった。


「ギャハハハハ! ナマイキな態度を取った報いよ、骨も残さずバラバラになりなさいよ」

「羽虫が……この程度でワシに勝てると思っておるのか。千年早いわ!」

「なっ!?」


 アンさんのいた辺りから、紫の気流が吹き荒れる。


「クソたわけども……死にたくなければ下がっておれ」


 アンさんの巻き起こした気流は多数のドラゴン種を全て吹き飛ばした。


「同族を屠るのはワシの趣味ではないのでのう……」


 アレだけ大量にいたドラゴン種は恐怖のあまりトゥルゥーを見捨てて全部が一目散に逃げ出した。


「もし次見かけたら……その時は覚悟するのじゃな!」

「な……何なのよ! 何なのよアンタ達! あたしがアンタ達に負けるわけない! あたしは闇の貴族、アビスお姉様の妹なのよ!!」

「ほう、あの腐れ外道の……それでは遠慮なく本気を出せるわ」


 アンさんの目が鋭く金色に光った。


「魔道に堕ちた程度の小娘が……年季の違いというものを教えてやるわい」

「な、何なのよ何なのよ……クソガキ、なんでこんなにあたしの体が震えているの!?」


 本気を見せたアンさんの気迫は、少し離れた場所にいるボク達でもビリビリ感じるほどだ。

 だとすると真正面にいるあの魔獣使いはそれ以上のプレッシャーを受けている。


「さあ、覚悟は良いか……小娘」

「いや、もうイヤーッ! あたし帰るっ。こんな所二度と来るもんかっ!!」


 アレだけ偉そうな態度をしていた魔獣使いはヒステリーを起こしながら半狂乱になっている。


「バイバイッ! お姉様に言ってお前ら全員ぶっ殺してもらうんだから。さよならっ」


 アレだけ偉そうな態度だった魔獣使いのトゥルゥーは、泣きながら逃げ出した。

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