553 不死身のバンパイアロード
ホームさんは聖剣魂の救済者を構え、バンパイアロードに突きつけた。
「失せろ……とは言いません。ここで僕がお前を倒します!」
「ナマイキなんだよー! せっかく可愛い顔だからアタシ専用の玩具にしてあげるつもりだったのに!」
「その傲慢な態度、僕の大嫌いなクソ貴族そのものですねっ」
「闇の貴族であるアタシが弱者を踏みにじるのは当然の権利だ!」
バンパイアロードは声を荒げてホームさんと言い争いをしている。
しかし、ホームさんの口からクソ貴族なんて言葉が出てくるとは思わなかった。
「まあいいわ、そのナマイキな態度、叩き潰して泣かせながらいたぶってあげるから!」
「貴女と話すようなことはもうありませんっ!」
ホームさんは剣を横に鋭くすれ違いざまに、バンパイアロードの脇腹を切り裂いた。
「い、痛いィィィッッ! 何でよ!? なんで不死身のアタシが……?」
ホームさんの聖剣が白く光り輝いている。
彼はその剣を高く掲げた。
すると、剣から甲高い音が ――キィィィン!―― と聞こえてくる。
「貴女に話すことは無いと言ったはずです!」
「ふざけるな! ふざけるな! フザケルナァァァ!」
目を真っ赤にしたバンパイアロードが身体強化の闇魔法を使い、先程よりも素早い動きでホームさんに襲いかかった。
だが、ホームさんは目を閉じてその動きを全てかわし、爪や骨の変化した刃をはじき返した。
「何なのよォォ! 目を閉じてもアタシの攻撃を避けれるって、馬鹿にしているのォォ!?」
バンパイアロードは怒り心頭だ。
半狂乱になった彼女は手当たり次第に周りの物を切り刻んでいる。
その辺りをうろついていたゾンビも、数十匹ほどその犠牲になってバラバラの肉片として飛び散ったくらいだ。
しかしそれだけの猛スピードの斬撃の全てがホームさんの前では全く相手になっていない。
一体彼はどんな修業をしたのだろうか。
「へェ、やるじゃない。まああの程度、異界の強敵に比べればあの子にとっては肩慣らし程度の強さだけどねェ」
「そうですわ。お兄様ならあの程度相手にもなりませんわ。お茶を飲みながら見物していても良いくらいかしらね」
なんとものんきな事を言っているのは大魔女エントラ様とホームの妹ルームの二人だ。
しかし実際あれだけ最強クラスのはずのS級モンスターであるバンパイアロードがホームさんの前にまるで子ども扱いだ。
目を閉じていたホームさんだったが、バンパイアロードが肩で息をするくらいの状況になって目を開き、剣を縦に鋭く振り下ろした。
「レジデンス流剣技……縦一閃!」
「グギャアアッッ!」
バンパイアロードは右半分と左半分にぶった斬られ、真ん中から二つに割れた。
「貴様貴様貴様! 絶対に許さないっ!」
半分に斬られたバンパイアロードは自らの右半分をわざとさらに縦に切り裂いた。
一体この行動に何の意味があるのか?
そう思っていたが、その意味はすぐに理解できた。
ホームさんの切り裂いた切り口のある体の一部は、消滅して消え去った。
しかしバンパイアロードがその後切り裂いた体がどんどん再生している。
そして一瞬で再生を終わらせた右半身を残った左半身とくっつけたバンパイアロードはフラフラになりながらも上空に逃げた。
「貴様ら、コレで勝ったと思うな! アタシは貴様らを絶対に許さない。貴様らの大事なものを全て踏みにじって後悔させてやるっ! 覚えておけッ」
服のボロボロになったバンパイアロードは捨て台詞を残してどこかに姿を消した。
そして主を失った生き残ったゾンビ達はわけもわからず村をうろうろしている。
「どうやら掃除の続きをしないといけないようですね」
「お兄様、ここは私にお任せくださいな」
今まで傍観の立場だったホームさんが魔法王の杖を掲げ、魔法の詠唱を始めた。




