552 バンパイアロード対聖剣の騎士
人間だと間違いなく致命傷どころか即死の大ダメージを受けながら、ダークリッチは骸骨むき出しの半分吹き飛んだ顔でボク達を睨んでいる。
「わ……わたしの美しい顔を……よくも、よくも!」
ダークリッチは目を真っ赤にして憤慨している。
「キサマラ……わたしの呪いで誰一人生かしては返さない……ここで死ねっ‼」
ダークリッチは残った体内の魔力を暴発させ、周囲ごとボク達を吹き飛ばすつもりだ。
「ギャハハハハ、死ね、死ねっ! 死ねぇえええッ!!」
「マズいねェ、アレは暴走状態に入ったようだよ。魔力を全部使ってこの辺り全てを吹き飛ばそうってワケだねェ」
「死ねっ! お前達人間と違ってわたしは不死身、いくら吹き飛んでも再生できるのよっ!」
『何だそれ!? MP全部消費の撃ち放題ってインチキだろ!』
『ソウイチロウさん、そんなこと言っている場合じゃないですよっ、どうやって止めればいいんですか!』
『そうだな、一番確実なのはこの辺り一帯を大きな穴にして上部の魔力暴発をしのぐ形かな……』
確かに納得だ。
あの魔法暴発が追撃型の魔法でないのは魔法の素人のボクでも見てわかる。
そう考えれば穴を開けて上で魔法を暴発させた方がまだよさそうだ。
だがダークリッチの魔力暴発は意外な形で消滅した。
「スト―ップ。そこまでにしておきなさいって」
「ブーコ! なぜ止めるの!? アイツらぶっ殺すチャンスだったのに!」
「アナ、お姉様がお呼びよ、すぐに戻ってらっしゃいよ」
「……」
ダークリッチの横にもう一人の魔族が姿を見せた。
あの姿は、騎士団を壊滅させたというバンパイアロードだろうか……?
「わかったわよ! ブーコ、お姉様にあまりくだらないこと言ったら……コロすわよ」
「大丈夫よ、アナ。アタシ達ずっと前から友達でショ。わざわざお姉様にアナのカッコ悪いところ報告したりしないわよ。そうね、アナはとても頑張ってたけど……敵がそれ以上に強かったからアタシが助けに行ってあげたって伝えるくらいよ」
「ブーコォォ!」
ダークリッチは吹き飛んだ身体を再生させながら、仲間のはずのバンパイアロードと何かを話しているようだ。
「クズの人間め! わたしはお姉様にもっと強くしてもらって……お前達を全員殺す! 覚えていなさいっ!」
アナと呼ばれたダークリッチは悔しそうに捨て台詞を吐いてから転移魔法を使い、その場から姿を消した。
そして残ったのはバンパイアロードだ。
「アナが倒せなかった人間ども、アタシが倒せばお姉様に褒めてもらえるわ……ヒャハハハハ」
バンパイアロードはけたたましく笑っている。
どうやら一人だけでボク達を倒せると思っているようだ。
「でも、アタシはあの弱っちいアナとは違う、バンパイア。つまりは闇の貴族ブーコ様よ!」
ブーコと名乗ったバンパイアロードは背中の羽を生やし、凄まじいスビードで滑空してきた。
「早いっ!」
「遅いわよ、バラバラに切り刻んであげるわっ!!」
ガキィイイン‼
だがその鋭い爪を弾いたのは、ホームの聖剣だった。
「そのセリフ、そっくりお返ししますよ。貴女、遅いですね」
「なっ、何なの!? 可愛い顔して……アタシの好みだと思ったからアンタだけ生かしてあげようと思ったのに、気に入らないわっ!」
「生憎、僕は貴女に好きになってもらいたいと思いません」
「アンタ、生意気なのよっ!」
バンパイアロードは自らの腕から鋭い刃を生やし、ホームさんに斬りかかった。
だがホームさんはその全ての動きを見切っているようだ。
「貴女程度の相手ならいくらでもいましたよ、異界の悪魔達に比べれば貴女なんて子供程度でしかありませんよ」
丁寧な言い方だけどホームさんの言葉はかなりキツイ。
「では……こちらもそろそろ本気を出しますよっ!」




