54 みんな、がんばれ!
流石は遺跡の剣である、マンティコアの硬い表皮も難なく切りつける事が出来た。
だが、剣だけではなく私のレベル44からするとマンティコアはせいぜいレベル25~28といったところである。
少しオーガーより弱いくらいなので今の私一人だけで十分に勝てる強さだ。
しかし、それでは旅のテンションも何もあったものではない、
一人だけ突出した能力でグループを引っ張る事は弊害を招く恐れがある。
現に『トライエニアックス』で“ドラゴンズスターⅦ”以降のメインキャラデザインを担当した小村が制作のメインを担当した作品は他のスタッフの色が見えない小村スタイルだけが目立つ作品になってしまった。
それでもソフト単体の売り上げはある程度には出ていて、マーケティング的には成功に見えたが、本来の“ドラゴンズスターシリーズ”の楽しみを期待していた古参ユーザーは独創的に突出した『厨二病スタイル』の小村デザインを『コムリッシュ』と蔑称をつけて批判した。
この様に一人だけが突出して目立つとチームワークやスタッフ間の伝達がうまく行かず、本来実力を発揮できるはずの人が何もできずに目立たず才能の目を出せないまま終わってしまう場合があるのだ。
それ故に私は今の強さを誇示するのは避け、今いる全員でマンティコアを倒すために出来る事をリーダーとして考えたのだ。
「ボクがけん制するからみんなはそれぞれの出来る事を考えてくれ! 全員で力を合わせないとコイツには勝てないぞ!」
「ユカ様、わかりました!」
「承知いたしましたわ!」
「りょーかいぃ! あーしにいい考えがあるよっ」
「……マイルさん? いい考えって何でしょうか?」
「エリアちゃんは商隊の皆さんを元気づけてくれればいいよ」
「……わかりました、私も出来る事をします」
マイルさんにはこの状況を打破するいい作戦があるようだ。ここで一番作戦を任せて良さそうなのはマイルさんだと私は判断した。
「話すのは後だ! マイルさん、では早速それをお願いします!」
「ユカ。アンタのみ込み早いねっ! 流石だよ」
そういうとマイルさんはマンティコアと装甲馬車の双方を見た上で指示を出した。
「誰でもいいぃ! 力のあるやつは荷物の中から酒樽を水たまりにぶん投げてくれっ! 出来るだけ甘い酒がいい!」
「マイル様! 承知致しました!!」
商隊の中でも一番の力持ちが両手に酒樽を抱え、マンティコアのいる水たまりに投げつけてきた。酒樽は砕け散り、水たまりには甘い酒が流れ込みブレンドされた。
「よーし! 作戦通りだよっ。これでヤツは酒に気が取られるはずだ!」
マイルさんは損得を考えた上で酒を無駄にしつつもマンティコアを倒す事を優先した。
この『損して得取れ』が出来るのは一流の商人でないとなかなか思いつかない。
「マイルさん、あの酒にファイヤボールをぶつければ燃やせますわ 私にお任せ下さいませ!」
「ルームちゃん、それはやめといたほうがいいねっ。あの酒は度数があまり高くないから燃えにくい、それにせっかくマンティコアが油断しているのに意味がなくなる」
「それではどうすればアイツを倒せるのでしょうか……」
私はこの後の作戦が見えていたのでホームにそれを伝えた。
「ホーム、君はマンティコアの前で防御をしていてくれ。その間にやりたい事があるんだ!」
「ユカ様、了解しました!」
ホームは酒を舐めているマンティコアの前に踏み出した。
「僕が相手だ、今度は油断しない!」
マンティコアはまるで興味無さそうに横目でホームを睨んでから酒を舐め続けた。完全に油断している。今がチャンスだ!
「ルーム! アイスストームは使えるか?」
「勿論ですわ! 私にお任せ下さいませ!」
「ではアイスストームをマンティコアの足元に頼む!」
「お任せあれですわ!」
この作戦が決まればマンティコアは確実に倒せる、その為にはみんなの連携が必須なのだ。