551 ダークリッチ対大魔女
ナンコツと血管針は分かる人だけ笑ってください。
村に入ったボク達を出迎えたのは、多数のゾンビの群れだった。
「ァガッ……ムラヘようこソォ!!」
言葉がよく聞き取れないが、元々門番か案内係だったであろうゾンビが、襲いかかってきた。
だが動きが緩慢で攻撃が当たるとはとても思えない。
ボクは軽く剣でゾンビをなぎ払った。
その後ろからゾロゾロゾロゾロとゾンビが現れた。
「あらー、おにイザン、いいオドゴォ! パフ……パフしまヂョォ!」
女性のゾンビが飛び掛かってくる!
「いやぁアア! 不潔ですわぁあぁあ!!」
ゾンビ達のあまりに気持ち悪さにルームが辺り一面を吹き飛ばした。
……どうも魔法力は最強レベルでも、精神面はまだ完全に成熟しているとは言えないようだ。
「エサだッ!」
「おおお、うっへへェエ。オンダダァ……若イオンナダァ!」
「食ってヤル、バリバリとなァ!」
「軟骨がウメーんだよォ! ナンコツがァッッ!!」
コイツら、全員ゾンビだ。
どうやらこの村に生き残った人間は一人もいないらしい。
「クラエ、ケッカンコウゲキッ!」
ゾンビが体の中から血管を針のように伸ばして攻撃してきた。
だが所詮このゾンビ達は言ってもB級かC級モンスターに過ぎない。
到底今のボク達の敵ではない。
「みんな、針や爪みたいな尖った攻撃に気をつけるんだ」
こんな連中、攻撃さえ喰らわなければザコ同然だ。
ホームさんは聖剣で次々とゾンビをなぎ払っている。
シートとシーツの二匹の狼も噛みつき攻撃はせず、爪で次々とゾンビをバラバラに切り裂いていた。
どうやらこのゾンビはそれほど強くない、ということは……始祖もそれほどの者ではないのだろうか。
「あら、わたしの作ったゾンビをこうも簡単に倒してくれるって、ナマイキねっ!」
「誰だ!?」
ボク達が声のする方を見ると、屋根の上には若い女の魔族が座っていた。
「人間に名乗ってあげるほど安い名前は持って無いわよ。下等な種族ふぜいが!」
女の魔族はそう言うと闇の上位魔法を放ってきた。
黒い稲妻がボク達を襲う、しかしそれは一瞬で姿を消した。
「へェ。ダークサンダーとはねェ……アンタ、なかなかやるじゃない」
「なっ! 人間ごときがわたしの魔法をかき消したって言うの!?」
「でもまだ未熟よねェ。アンタ魔力に振り回されてるって丸出しだからねェ!」
「な、何だと! ふざけるなっ‼ 人間ごときが!」
女の魔族は黒い魔力を集め、次々と大魔女エントラ様に向かって放った。
しかし彼女はそれを笑いながら軽く全てかき消している。
「それが振り回されているっていうことだからねェ! 強い魔法を使えば勝てるって思ってるのかしらねェ!」
年季と力量がまるで違う。
あの魔族は間違いなく騎士団の人達に聞いた魔将軍アビスの部下のダークリッチだ。
ダークリッチはA級どころかS級モンスター。
あの冒険野郎Aチームのハンイバルさんやこの国最強の戦士である父さんでも勝てないかもしれない相手だ。
しかし大魔女エントラ様はそのダークリッチをまるで子ども扱いにしている。
「何なのよ何なのよ何なのよ! アンタ気に入らない! ここで死になさいよっ!」
ダークリッチが黒い魔力を再び集めている。
どうやらこの村もろともボク達や大魔女エントラ様を消そうとしているのだろう。
「感情に任せて無駄に魔力使うのがお子様だと言ってるのに、分からない娘だねェ!」
大魔女エントラ様は杖の先端から小さな光の玉を黒い魔力の塊目掛けて放った。
ドガァアアアァァァンッ!!
「ぎゃあぁアアッ!!」
黒い魔力を放とうとしていたダークリッチの顔半分と腕から右半身上部が吹き飛んだ。
「わからない娘だねェ。魔力はそれに相反する別の魔力をぶつければ対消滅するってのに、エネルギーの使い方をわかっていないから吹き飛ぶんだからねェ」
ダークリッチは大魔女エントラ様の魔法によってかなりのダメージを受けたようだ。




