548 三体のS級モンスター
久々の主人公サイドの話です。
アビス達闇の姉妹の話はまた後程出てきます。
◆◇◆
食事どころの雰囲気で無くなったボク達はその後手早く夕食を済ませ、ドアを閉めた部屋で全員集まって話し合いをした。
そして逃げ出してきた騎士や兵士からボク達の聞いた話は想像以上に恐ろしいものだった。
村があった場所が何もない巨大な穴の開いただけの場所になっている。
たった一人の吸血鬼に村人が皆殺しにされるのを騎士団数十人でも助けられず、騎士団も逃げた数名を残し全滅した。
二人組の魔族が笑いながら村人を虐殺していた。
その辺りにいるはずの無い狂暴な魔獣が無人の村の中をうろついていた。
そして前日や数日前まで誰かがいたはずの村の住人が全て失踪したという最初に聞いた話。
どうやらボク達の敵は一人だけではなさそうだ。
『ユカ、どう思う? 私の想定ではこれはあの魔将軍アビスの仕業だけではないような気がするんだが』
『ソウイチロウさん、ボクもそう思います。話を聞く限り、敵は何匹か……それもかなりの強さだと……』
『そうだな、今回の敵は相当厄介だと思うぞ……アビスだけでも大変だというのに』
アビスとは魔将軍アビスのことだ。
ソウイチロウさんがボクの身体を使って魔族の大軍もろとも倒したはずの相手。
『でもソウイチロウさん、アビスは貴方が倒したはずではなかったのですか?』
『いや、残念ながら追い詰めたものの逃げられてしまった……嫌な予感がするが、アビスは自らの力で人間を魔族化したのかもしれない』
『人間を!? そんなことができるのですか!』
どうやら魔将軍アビスは自らの仲間を作り、その仲間に次々と町を襲わせているとソウイチロウさんは言っている。
「妾の見立てでは、これは間違いなく魔将軍アビスの仕業だろうねェ。」
世界の大半を知っている大魔女エントラ様も今回のことは魔将軍アビスの仕業だと睨んでいるようだ。
「エントラ様、それはどういうことですか?」
「妾は魔力を感じる事ができるからねェ、以前に倒したバスラ伯爵の変化したグリードスライム、アレを倒した時の邪悪な魔力と……この間この村に帰ってくる途中に寄った無人の村で感じた残滓の魔力、それが全く同じ物だったってわけさねェ」
それなら間違いない!
今回の一連の惨劇の裏にいるのは間違いなく魔将軍アビスだということだ。
「どうやら話は思った以上に深刻そうですね。私の知る限り騎士団が逃げ出すなんていうことはそうそうあるものではありません。確かに私は変に誇りにこだわるよりは生きて再起しろと騎士団長だった時に伝えてあります」
ゴーティ伯爵は見栄や名誉より実を取る人だ。
その彼が騎士団に無理をするなと言っているのも納得できる。
「ですが、あれだけの精鋭ともいえる騎士団が全滅し、逃げ出せたのが数名とは……想像以上です」
でもそれでも助かったのが数名だけ、敵はA級どころかS級モンスターだと想定した方が良いかもしれない。
「父上、僕が話を聞く限りだと……敵はバンパイアロードと魔獣使いがいると見て間違いないと思います、それもA級モンスターではなくS級モンスター。父上の指揮した騎士団が弱いとは思いませんが、S級モンスターなんてものは普通の人間の相手できるものではありません」
「ホームの言う通りでしょう。そんなモンスター、下手すれば出くわしたとすれば天災クラス、ドラゴンが村に降りてきたようなものです。救援に向かった騎士が数名助かっただけでも不幸中の幸いというべきでしょう」
敵は想像以上に強い。
どうやら話をまとめると、魔将軍アビスはあの南方の決戦の後逃げ出し、逃げた先で自らの魔力を使ってS級モンスターの仲間を増やして次々と村を襲っているといったところだろう。
「私が生き残った騎士団から聞いた話ですと、敵はバンパイアロード、それにダークリッチ、そして多数のA級のモンスターを使う魔獣使いの三体がいてバラバラに動いているという話です」
バンパイアロード、ダークリッチ、魔獣使い。
それに魔将軍アビス、敵はSクラスが四体いると考えたほうがよさそうだ。
さあ、今後どう動くべきだろうか……。




