545 みんな……大嫌い
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みんな大嫌いだ。
穏やかな村も、退屈な景色も、何も変わらない毎日も。
あたしはこの村が嫌いだった。
みんなはあたしのことを、あんな良いお姉ちゃんがいて幸せよねとか言っている。
でもあたしはあの女が一番大嫌いだ。
明るく、誰にでも優しくて、あたしのことを大事に思っている。
いらない、そんなのいらない。
あの女とあたしはいつも比べられた。
人と話せず、無口なあたし。
誰とでも仲良くなり、誰にも愛されるあの女。
いつもいつも見比べられるたびに、あたしはみじめな思いをしていた。
「トゥルゥーは無理しなくていいのよ。お姉ちゃんが守ってあげるから」
いつも言われることだった。
何をやってもドジをする、物覚えが悪くてすぐに忘れてしまう。
それでもあの女は怒るどころかその度にあたしを心配した。
それがどれほど悔しかったことか……。
でもそんなあたしでも一人だけ心を許した人がいた。
お兄ちゃんだ。
近所に住む幼馴染で、あたしのことをいつも優しい目で見てくれた。
あたしはお兄ちゃんのお嫁さんになれるならそれだけでいいと思った。
そのためにニコニコしながらいつも家畜の世話をしたし、村の人にも作った笑顔でニコニコしていた。
でも本当は嫌だった。
だけどいつか、お兄ちゃんと一緒になれる日のためにと思ってあたしは頑張った。
それを、あの女は……あたしからお兄ちゃんを奪ったのだ。
「僕、実は結婚しようと決めている人がいるんだ」
当然それはあたしの事だと思った。
しかし、お兄ちゃんはあの女を連れてきた。
「実は……ずっと前から付き合っていたんだ。でも二人で相談していた。僕達が結婚してしまったら、トゥルゥ―が一人ぼっちになってしまう。だから、僕とお姉さんとでトゥルゥーも一緒に住もうって」
なんなのよそれ!
あたしに叩きつけられた残酷な現実。
あたしは一体何のために振りまきたくもない笑顔を作って黙々と家畜の世話をしていたと思ってるの……。
あたしは目の前が真っ暗になった。
そして次の日、村ではお兄ちゃんとあの女の結婚式が行われた。
あたしは呪った。
『こんな村……滅びてしまえばいいのに。もし悪魔がいるならあたしに力をください。この魂と身体をささげてもいいから』
あたしは結婚式には出ず、ベッドで一日中泣き続けた。
そして次の日……あたしの運命を変える出来事が起きた。
その日は朝早くから村が騒がしかった。
何かあったのかな?
あたしはあの女に言われて仕方なく家の外に出た。
すると、村の上空には美しい三人の悪魔の姿が見えた。
『あたしの願いが叶ったんだ!』
あたしは満足そうに空を見上げた。
三人の悪魔の真ん中にいた女性は、この世のものとは思えないほど怪しく美しかった。
やった……コレでもう死んでもいい。
あたしは安堵した。
あの悪魔達は間違いなくこの村を滅ぼすために現れたのだ。
そして殺戮が始まった。
あたしを裏切ったお兄ちゃんも、あの美しい悪魔になすすべもなく肉塊にされていた。
あの女、目の前でお兄ちゃんが肉塊にされたというのに涙すら流そうとせず、それでもあたしを守ろうとしていた。
でも、そんなあたしの感情を見抜いたのだろう。
美しい悪魔はあたしの額に触れ、優しい言葉をかけてくれた。
「もっと……素直になりなさい」
その一言で吹っ切れたあたしは、その辺りに落ちていた包丁を拾いあの女を背中からぶっ刺した!
気持ちいい。
今まで我慢していた分、あたしは感情の赴くままにあの女をめった刺しにした。
動かなくなったあの女を見てあたしはとても最高の気分になった。
でも、あたしの人生が大きく変わったのはその後のことだった。
あたしは三人の悪魔の一人、アナと呼ばれた方に血を吸われた。
最初は何ともいえない感覚だったが、その後死にそうなくらい苦しかった。
でも、その苦しみを超えた後、あたしは人間であることをやめられた。
あたしはお姉様達と同じ魔族になれたの。
「トゥルゥー、アナタ……ここにいる村人、全員殺せるかしら?」
「はい、喜んでやらせてもらいます!」




