544 責任を取るということ
一人称がわかりにくくなるので、村娘ことトゥルゥーちゃんの一人称をアタシから あたし に変えました
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アビスお姉様に責任を取れと言われた。
これは一体何を意味するのだろうか……?
責任を取ってつまみ食いした娘を殺せということなの?
それとも、責任を取ってこの場にいる者をお姉様が食べやすいようにしろということなの?
それとも、もしかして責任を取ってわたしに死ねと言っているの??
わからない。
しかし地面にへたり込んでいるわたしをブーコが笑いながら見下している。
「あーら、アナ。つまみ食いなんてだめよー。はしたないわね、お姉様の言う通り、セキニンをきちんと取りなさいよ、アッハハハハハハ!」
コイツ、マジでウザい。
いつか絶対に殺してやる。
「お姉様、ごめんなさい」
わたしはとりあえず反省した姿を見せるためにお姉様に謝罪した。
「アナ、アタシちゃんはね……アナが憎くて言っているのじゃないのよ。魔族の貴族として、もっと相応しい態度になって欲しいの」
わたしが心から謝罪したことでお姉様が優しく声をかけてくれた。
どうやらこの感じでは責任を取って死ねという意味ではなさそうだ。
「お姉様、途中で止まってしまいましたが朝食はどうなさるのですか?」
「フフフ、もう食べたわよ……最高の絶望だったわ。見なさい、あの表情を」
お姉様が指を指した先にいる人間達は、全員が逃れられない死を呪い、絶望に沈んだ表情だった。
「最高の負の感情……憎しみと悲しみと怒りの程よく混ざったこのブレンド具合が最高なのよ……だから血肉は必要無いわ。アナタ達が好きにしなさい」
「はい、お姉様……では、あのわたしがつまみ食いしてしまった娘は……?」
「フフフ、アタシちゃんは好きにしなさいって言ったはずよ。その意味を考えるのね」
わたしは血を吸われ、倒れている少女を見た。
彼女は吸血が不完全だったらしく、まだ生きている。
だが、その肌の色はどんどん紫色になり、荒く息を吐いた口からは小さな牙が見える。
「こうなっちゃったら血浴みには使えないのよね、もうニンゲンじゃないんだから」
お姉様がニヤニヤしながら私を見つめる。
この言葉に意味があるのは想像がつく……だが、どうしろというのだろうか。
わたしは倒れた少女のそばに寄り、抱え上げて首筋に噛みついた。
!! 不味い!? 先程はあれ程美味しかったというのに……。
わたしはあまりの血の不味さに思わず吐き出してしまった。
少女の首筋にある私の開けた牙の痕から血が流れ出している。
だが、その色は人間の鮮血の赤ではなく、紫色になっていた。
そうだったのか。
わたしが中途半端に血を吸ってしまったので、この娘は半魔族になってしまったようだ。
「フフフ、可愛がってあげなさい。アナの初めての眷属なんだから」
そうか、お姉様が言っていた責任を取りなさい、の意味は……半魔族化してしまったこの娘をわたしの部下か妹として面倒を見ろという意味だったのか。
「う……ああぁぁ……」
半魔族化している途中の娘は苦しそうだった。
しかし責任を持つといったからには、わたしはこの娘の面倒を見なくてはいけない。
わたしは不味い血を我慢しながら吸うことにした。
我慢しなくては、お姉様に責任を取れといわれたのだから。
わたしが血を吸い続けると、紫色だった少女の肌の色は完全な青に変わった。
「あ……あなた……だれ?」
「気が付いたようね、わたしはアナ、アナタの……お姉さんになるのかな」
「お姉……ちゃん? あたし、トゥルゥー」
「トゥルゥーね、ようこそ。甘美な魔族の世界へ」
「そうか、あたし……もう人間じゃないんだ」
トゥルゥーと名乗った娘は、わたしが手を引き、お姉様の前に連れて行った。
「おめでとう、アナ。それじゃあ……アナタ、その娘と一緒にこの村の始末をしなさい」
「はい、お姉様」
お姉様は含み笑いをしながらわたしとトゥルゥーを見た。
「トゥルゥー、アナタ……ここにいる村人、全員殺せるかしら?」
「はい、喜んでやらせてもらいます!」
そしてわたしに可愛い妹が一人出来た。




