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543 闇を抱えた妹

◆◆◆


「そんなキズモノ、見抜けないなんて……馬鹿なの? 無能なの?」


 アビスお姉様が辛辣にブーコを罵っている。

 いい気味だ。


「そんな、お姉様ー。そんなこと言わないで下さい」


 ブーコが涙目になっている。

 その様子を見ていた少女は、いきなり妹らしい少女の前に立って手を横に広げた。


「わたしは……どうなっても構いません、妹にだけは手を出さないで下さい!」


 少女は姉として気丈に振舞おうとしているようだ。

 その後ろにいた妹らしい少女をお姉様は横目で見てニヤリと笑った。


「良いわね、その目……アタシちゃんをゾクゾクさせるわ」


 お姉様が何かを感じたらしい。

 だが、わたしはあの妹らしい少女を見ても何も感じなかった。

 やはりお姉様は素晴らしい。


「やめてっ! 妹には手を出さないでっ!! わたしはどうなっても良いから! ほら、食べなさいよ……アンタ達、エサが欲しいんでしょっ」


 なんという生意気な態度。

 人間ふぜいがわたし達を下に見てエサとかほざいている。


「フフフ……良いわね、その綺麗な魂。反吐が出るわっ!」


 お姉様の目が邪悪に染まる。

 見ていると体の芯がゾクゾクするような怪しい美しさだ。


「そうね……いいことを考えたわ」


 お姉様はそう言うと、庇われていた少女の後ろに回り、振り返った瞬間額に指を触れた。


「もっと……素直になりなさい」

「妹から離れてよっ! この悪魔っ!!」

「あら、ゴメンナサイ」


 お姉様はあっという間に元の場所に瞬間移動した。


「フフフ、良いのよ……アナタの思うがまま、動きなさい」

「アンタッ! 妹になにをしたのよ……グハッ!!!」


 ズシュッッ!!


 妹をかばっていた姉の少女は、突然後ろから誰かに刃物で刺された。


「え……なぜ……?」

「フフフフフ……。ヒャハハハハハァァアッッ!!」


 拾った包丁で少女の背中を刺したのは、彼女に庇われたはずの妹だった。

 お姉様はこれを見越していたのか。


「アンタなんて、いなくなればいいのよっ! 何よ何よ何よっ! いつもいつもいい子ぶって……あたしの欲しい物全て奪う癖に! お兄ちゃんは……アタシのモノだったのよ!!」


 妹は刺されて倒れた姉の上に馬乗りになって包丁を逆手に持ち直した。


「死ね、死ね、死ね……死んでしまえぇぇ!!」

「な……ぜ…………?」

「お姉ちゃんはいつもそう、いつも優しくて、誰にも愛されて……村一番の人気者で……みんなに祝福されて……お兄ちゃんまで奪った! あたしが……アンタといつも見比べられてて、どんなにみじめな思いだったかなんて知らないんでしょっ! 死ね! 死ね!!」


 お姉様が欲望の引き金を引いたとはいえ、あの娘は姉をよほど憎んでいたのだろう。

 もう死んでいるのに何度も何度も包丁を姉の身体に突き立てている。


「あは……あははははははっっっ」


 妹の少女が壊れたかのように大きく笑い出した。

 お姉様はとても満足そうな顔をしている。


「アナ、その娘……頼んだわよ」

「はい、お姉様」


 わたしは妹の少女の後ろに近づき、彼女を手で押さえて抱え込んだ。


「誰よっ! アンタ、邪魔したら殺すわよ!!」


 少女が包丁を震わせてわたしにすごんでくる。

 だが所詮は無力な人間。

 それよりも……わたしはその少女の白くて細い首筋がとても美味しそうに感じてしまった。

 だめだ、もう我慢できないっ!!


 ガブッ!


「あっ! あああっ」


 わたしはつい、少女の首筋に噛みついてしまった。


「アナ、アナタ一体何をしているのかしらっ!?」


 お姉様が私を叱責する。

 でも止められない、憎しみを抱え込んだ処女の血がこんなに美味しいなんて……。

 わたしは少女の首筋をお姉様に無断でつまみ食いしてしまった。


「アナ……一体何をしたかわかっているの?」

「え? お……お姉様っ」


 お姉様はわたしに一瞬で近寄り、激しい平手打ちを叩きつけた。


 パァァンッ!!


 ただの平手打ちだったはずだが、お姉様の力は私を軽く建物まで吹き飛ばした。

 痛い、魔族になって初めて感じた痛みだ。

 人間だったら間違いなく即死していただろう。


「アンタ……責任を取りなさい……」

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