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542 悪魔の朝食

◆◆◆


「さあ、誰からいただこうかしら」


 お姉様が誰を食べるか選んでいる。

 わたしとブーコはお姉様より先に食事するわけにはいかない。

 それはお姉様に対する無礼に当たるからだ。


 そして……お姉様は小さな男の子と母親の二人を指さした。


「決めた、前菜はアンタ達よ」

「ひっひいいぃぃー!」


 指さされた親子がその場にうずくまる。

 母親は小さな男の子を抱えながら懇願した。


「お願いですっ! 私はどうなっても構いませんっどうか、この子は、この子だけは見逃してくださいっっ」


 母親は泣いて地面に何度も頭を打ち付けてお姉様に子供の命乞いをしている。


「あら、アンタ、その子がそんなに大事なの」

「お願いです、どうか、どうかこの子だけは……!」

「母ちゃん、母ちゃぁぁぁーん!!」


 男の子は母親にすがりつく形、母親は子供をかばって命を差し出そうとしている。

 まあこんな無様な三文芝居、見ているだけ退屈なんだけどね。 

 この世界にいる者は全て傍役、芝居の主役は当然お姉様だ。


 お姉様はニヤリと笑いながらこの三文芝居に幕を下ろした。


「だーめ、キャハハハハッッ!!」


 お姉様は母親の身体をすり抜け、子供だけに飛ばした管で首を貫いた。


「あ……ああぁ、かぁ……ちゃ」


 ズジュルルルゥゥウウ!

 お姉様は男の子の血を吸っている。

 そして一分もせず、男の子はカサカサのミイラになってしまった。


「ぼうやぁぁぁー!」


 涙を流して叫ぶ母親。

 だがその絶叫は一瞬で終わった。

 アビスお姉様が子供の母親の首を一瞬で潰したからだ。


 ブシャッッ!!


 辺りにおびただしい血が吹き飛ぶ。

 首を失った母親の死体は、その場にゆっくりと倒れた。


「キャアアアァアッァッ!!」


 人間達の叫びが心地いい。

 この叫びは、次は自分の番だと逃れられない運命を呪った声だ。


「アナ、ブーコ。その女の死体、食べて良いわよ」

「「はい、お姉様」」


 わたしとブーコはようやく朝食をお姉様に許してもらえた。

 もうお腹がペコペコだ、食事前に準備運動をしたのでいくらでも食べることができる。


 私はその場に倒れた首の無い女の腕をもぎ、かじった。


 美味しい!


 やはり恐怖と絶対の絶望を与えたことで、血と肉の味に深みが出ている。


 バリバリゴリゴリ……ムシャクチャ……。


 わたしは我を忘れ、目の前の美味しい血肉を味わった。

 前菜としてはこんなものだろう。

 わたしは骨までは食べない。


 肉にかじりつき、血を啜ったわたしは骨のついた肉をその場に捨てた。

 食事はいくらでもある。

 それなのにわざわざ骨にしゃぶりつくのは、はしたないと思ったからだ。


 だが、ブーコはわたしは食べ残した骨のついた肉を拾い、かじって骨まで砕いて食べている。

 見た目がみっともないのでわたしとしては絶対にやりたくないことだ。

 でもなぜだろう、昨日のわたしの村で食べたコウの血肉は骨まで全部食べつくしたいと思ってしまった。


「アナタ達、前菜はそれくらいでいいでしょ。さあ、これからメインと行きましょうか」

「「はい、お姉様」」


 わたし達は血まみれになった顔でお姉様に返答した。


「いいわいいいわ、その表情……絶望を感じるわよ、キャハハハハハッ!」


 お姉様が上機嫌だ。

 この笑い方をしている時のお姉様はかなり機嫌がいいというのをわたしは学んだ。


「さあ、次は誰にしようかしら……」


 お姉様は次の食事を選んでいた。

 そして指さしたのは、若い娘だった。


「そうね、この娘にしましょう」

「え? お姉様ー、この子は見た目綺麗だから……血浴み用に連れて帰るんじゃないんですかー?」


 お姉様が少し不機嫌そうな顔をした。


「ブーコ、アナタの目って節穴? その鼻も飾りなのかしら?」

「え? お姉様、どうして??」


 お姉様がため息をつきながら愚痴った。


「その娘、キズモノよ。血浴みに混ぜたら汚れるわ」


 なんとお姉様は、一瞬でこの娘が処女ではないことを見抜いたのだ。

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