541 ほんの朝食前
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「化け物だー!」
「あらあら、こんな可愛い女の子達を化け物呼ばわりなんて、センスの無い男ね」
小さな村は中心に降り立った三匹の魔族によって朝食どころではなくなっていた。
「化け物め、これでもくらえ!」
村の屈強そうな男がアナに向かって鍬を振り下ろしてきた。
「フン、こんな不味そうなやつ……食べる価値も無いわ」
アナは指先から黒い炎を放ち、男を一瞬で消し炭にしてしまった。
「ギャアアアッ!」
それが男の最後の叫びだった。
「汚物は消毒よ……」
魔将軍アビスは冷酷な表情で屈強な男を燃やし尽くしたアナを優しい目で見守っている。
しかしそのすぐ後にまた意地悪な表情になった。
「アナは大丈夫そうね。それじゃあブーコ、アナタにもこれをあげるわ」
アビスはブーコにアナにあげたものと同じ魔封じの指輪をはめた。
「やーん、お姉様ー。こんな公衆の面前で恥ずかしいですわー」
ブーコはわざとアナに見せつけるように指輪をドヤ顔で掲げた。
アナの表情は嫉妬で醜く歪んでいる。
村人達はその表情を見て、更に怯えてしまった。
「助けてください! お願いします」
「だーめ、お前達はここで死ぬのよ」
アビスは楽しそうな表情で死刑宣告を村人達に放った。
「そうね、ブーコ。次はアナタがその指輪をつけたままやってごらんなさい」
「はい、お姉様ー」
ブーコは背中に翼を生やすと、人間には捕らえられないような速さで低空飛行しながら周りを囲んだ男連中をバラバラに切り刻んだ。
「なんなのこれ、朝食前の準備運動にもならないわ」
「キャアアーッッ!」
ブーコは血まみれの指をペロリと舐めた。
「ゲェッ! 不味ッ」
「あらあら、ブーコもすっかり美食家になっちゃったわね。キャハハハッ」
「お姉様ー。美味しくなさそうなヤツら、全員皆殺しにしていい?」
「ええ、好きになさい」
「ありがとうございますーお姉様ー」
ブーコの表情が大きく口を開いた気味の悪い笑顔になった。
「お姉様、ブーコばかりにやらせるんですか? わたしも殺戮を楽しみたいです」
「ええ、良いわよ。アナ、美味しそうなのはきちんと残しなさいな」
「はい、こんなのほんの朝食前の運動ですわ」
「頼むわよ、アタシちゃんの可愛い妹達」
三匹の魔族の朝食に選ばれてしまった村は、ほんの三十分もせずに大半の住民が皆殺しにされてしまった。
生き残った男連中は、二匹の魔族に指示をしている女が自ら手を出さないことから……こいつは三匹の中で戦闘能力を持たない地位だけの貴族だと考えた。
「あのお姉様と言われているやつさえ無力化できれば!」
「村の人達の仇だ、あの女さえ殺せば」
「どうせあんなやつ、口だけで自ら動こうとしない立場だけのやつさ。アイツさえ倒すか人質にすればどうにかできる!」
だがそれが最も間違った選択だとは誰も気が付かなかった。
「「うわあああっ!!」」
生き残った男達は全員で高笑いしているアビスに攻撃を仕掛けた。
「お姉様!」
「大丈夫よ、どうやらこいつら、アタシちゃんが一番弱いとでも思ったんでしょう」
アビスが邪悪な笑顔を男達に見せ、空中に舞い上がった。
「キャハハハハハハハッッ! お馬鹿さぁんッ!! どうせアタシちゃんが一番弱いとでも思ったんでしょう。舐めるなよ、クズの人間どもが……魔将軍アビスの恐ろしさ、死んでも後悔しつづけるのねッ!!」
男達はあまりの恐怖に誰一人として動けなかった。
『魔将軍』
この肩書の恐ろしさはこんな辺鄙な村ですら誰もが知っているほどだ。
彼らはまさか目の前の魔族の少女が恐るべき魔将軍だとは誰一人として気付くものがいなかった。
そして、三匹の魔族達によって村は朝食前の準備運動代わりに滅ぼされてしまった……。
「さあ、生き残ったのはこれだけね」
村の中心部に集められ生き残らされたのは、母と子の親子連れ、それと女の子だけだった。
それ以外の男や老人はアビス達によって全て皆殺しにされた。
「まあ朝食としては十分な量かしら。可愛い女の子は血浴み用に殺さずに残すのよ」
「「はい、お姉様」」
そしてこれからが恐るべき朝食の時間である。




