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540 指輪をつける意味

◆◆◆


「フフフ、アナ達には今後人間の貴族達を使ってどんどん不幸を作ってもらわないと」

「お姉様、それって……?」

「フフフフフ……アナ、アナタの美しさは何のためのモノなの?」

「それは……勿論お姉様に可愛がっていただくためで……」


 アビスお姉様は意地悪な微笑みを見せた。


「まあ、それも間違っていないわよ。でもね、アナ達の美しさは……人間を不幸にするためのモノなのよ」

「あーん、お姉様―。もったいぶらないでどういうことか教えてー」


 相変わらずブーコは頭の悪そうな話し方しかしない。


「良いわよ、アナ達は今後、悪徳貴族……この国では公爵派って言われている人間どもに取り入って、どんどんワガママを言いなさい。それがアタシちゃんのためになるんだから……」


 ええっ? 人間どもに取り入る?

 それってひょっとして……。


「えー? お姉様ー。それってあの汚らわしい人間の貴族達にアタシの美しい身体を触らせたりするってことー?」


 珍しくブーコがわたしの代わりに聞きにくい質問をお姉様にしてくれた。


「クスクスクス……嫌なの?」

「い……嫌と言っていいなら嫌です……! なんであんな汚らわしい人間にアタシの身体を触らせ……!」


 お姉様がブーコの唇にキスをした。


「フフフ、まあ、気持ちは分からなくはないけど……アナタ達がもっと強く美しくなるためなのよ、我慢なさい……」

「は……はい、お姉様……」

「それに、我慢させられた分だけ、いざ滅ぼす時には好き放題にできるのよ……まずは貴族を篭絡して、言いなりにして下民を苦しめるの……」


 なるほど、そのためにこの美しい身体を使えということか。


「その後、下民たちに取り入って貴族を憎ませてお互い殺し合いをさせるのよ……その後で貴族に実態をバラしてから無惨に、残酷に殺せば……そう、より多くの憎しみと悲しみを得ることができるのよ」


 それなら確かにより多くの苦しみと憎しみを得ることができる。

 流石はお姉様。


「素晴らしいです! わかりました。より多くの人間を苦しめるために人間の世界に潜伏するには鏡に映らないとバレてしまうということですね!」

「そう、よくわかったわね。偉いわよ」


 やはりお姉様の考えは素晴らしい。

 この魔力封じの指輪は人間の世界で魔族であることがバレないためのモノだったわけだ。

 でも、魔力が使えないと人間の小娘と同じ程度の力しか出ないのでは……。


「何か不安そうな表情だけど、この指輪で魔力が激減しても……人間の数倍以上の力は使えるし、飛行能力や簡単な上級魔法くらいは使えるから」

「え? それって……」

「フフフフ……お馬鹿さぁん。元が大きいものが激減しても、全体の数としてはほとんど力を持たない無力な人間どもと比べたら圧倒的でしょう」


 まあ、そういわれればそうだ。


「ではその指輪をつけたまま朝食に出かけましょう」


 朝食、そういえばお姉様が朝食に出かけると言っていた。

 今から出かけて何を食べるのだろうか?

 食堂の予約でもしているというのだろうか……。


「あーん、お姉様ー。今からどこ行くんですか? 食堂の予約でもしてるの?」


 ブーコが聞きにくい質問をしてくれるので、わたしは黙ったままでいれる。


「キャハハハハ、本当に本当にお馬鹿さぁん! そんなわけないじゃない。人間の貴族と食事するフリじゃないんだから!」

「え? それって……」


「さあ、出かけるわよ」


 お姉様は指輪をつけたわたしの魔力のレベルに合わせ、ゆっくりとした速さで空に飛びあがった。


「さあ、極上の悲鳴と絶望を頂きに行きましょう」

「「はい、お姉様」」


 わたし達はお姉様に連れられ、近くの小さな村の中心部に降り立った。

 小さな村の辺りからは朝食の準備をする家の良い匂いが漂っている。

 人間達は上空から舞い降りたわたし達に驚き、どんどん集まってきた。


「さあ、朝食の時間よ」

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