534 アビスの眷属
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静かでのどかな村はたった一晩で滅びた。
辺りには住民の肉片すら残っていない。
ここにいるのはゾンビとスケルトンとゾンビリーダーの少女、それに恐ろしい魔将軍アビスとその眷属になった元村長の娘アナだけだ。
「楽しかったわね、特に子供をかばおうとする母親の目の前で子供を殺した時の血の味なんて、とても美味しかったわ」
「お姉様、ありがとうございます。お姉様の教えてくれた通りですわ。独り者の男の恐怖で怯えた血なんて一度あの親子連れの絶望に満ちた血と肉を喰らえば、不味くて仕方ありませんでしたわ」
アナが楽しそうに笑っている。
「フフフ、可愛い娘」
「ああん、お姉様。そこはダメですわ……」
二人だけになった恐るべき魔族は女同士で抱き合っている。
その遠くでは餌を食べつくしたゾンビ同士が共食いをしているようだ。
ゾンビの強さにも違いがあり、圧倒的に強かったのは最初にアビスがよみがえらせた少女だった。
二人で抱き合っていたアビスだったが、ゾンビの少女を見て彼女にとって面白いことを思いついた。
『そうだ、アタシちゃんに心髄から尽くしているアナを嫉妬させたらどれだけ楽しいかな……』
アビスは邪悪な微笑みをうかべ、いきなりアナを突き飛ばした。
「きゃぁっ、お姉さま、一体何を?」
「気が変わったわ……」
アビスはそう言うと、仲間を共食いしているゾンビ少女の元に飛んだ。
「ア……アガァア……」
「フフフ、アナタも……可愛くしてあげる。アタシちゃんの力、あげるわ」
ゾンビ少女は無造作にアビスに飛び掛かって食らいつこうとする。
その力は常人ではありえない、下手すればモンスターすら引き千切るほどの力だ。
だが魔将軍であるアビスには全く通じなかった。
「フフフ、可愛い子猫ちゃん」
アビスは軽くゾンビ少女の腕を握り、動きを取れなくしてしまい……その口にキスをした。
「ア……ガァ。ァ……アアあ、あ……え、アタ……シ? 死んだはずじゃ」
「おはよう。目は醒めたかしら?」
「ヒッ……ヒイッ! あなたは、村に迷い込んだ女の……子!?」
「あらあら、記憶が混乱しているようね。いいわ、アタシちゃんが教えてあげる。アナタ、もう人間じゃないのよ。キャハハハハッ!」
「ウソ、そんな……え? 村は??」
「本当に何も覚えていないのね。あんなに美味しそうに村人を食べつくしていたのに」
ゾンビ少女が泣きそうな顔になって、その場に座りこんでしまった。
どうやら知性を失ったゾンビだった時のことは何も覚えていないらしい。
それをアビスが下手に魔力と知性を与えたので今までの行動が恐ろしくなったようだ。
「ウソ……信じない、みんな……アタシが殺したなんて……」
「あらあら、信じられないのね。アナタ、もう人間じゃないのよ」
「そうだ、アナ……アタシ、アナに殺された……。アナはどこ!?」
ゾンビ少女が辺りを見渡すと少女の目の前には薄笑いしているアナがいた。
「あら、ブーコ。気が付いたのね」
「アナ! 絶対に許さない!」
「あらあら、喧嘩しちゃダメよ。二人共アタシちゃんの可愛い妹なんだから」
アビスはそう言うと二人の少女を同時に両手で抱え、それぞれにキスをした。
「「ハイ……お姉様」」
「素直でよろしい。そうね、アナタはブーコって言うのね。ブーコ、アナタはもう人間なんて愚かな者じゃないのよ、アタシちゃんと同じ魔族、そうね、バンパイアリーダーってところかしら」
「お姉様……」
アビスの魔力を与えられたゾンビ少女はランクアップでバンパイアリーダーになった。
ゾンビリーダーがモンスターレベルCクラス上位だとすると、バンパイアリーダーはAクラスだ。
だが、アビスの無尽蔵の魔力と、人間の憎悪や恐怖でエネルギーを手に入れる能力を手に入れたので実質Sクラスと同等と言っていいだろう。
その後アビスはアナとブーコという忠実な二人の眷属を使い、次々と近隣の村を滅ぼしていった。




